侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます
 だけど、エントランスから外に出るときも、侯爵の声はきこえてこなかった。

 彼は、いかなるアクションも起こさなかったのだ。

 ドタバタしていたというのに、ちゃんとアールのリードを装着した自分を褒めたい。

 やみくもに歩きながら、自分自身を褒め称えてしまった。そうしてから、すぐに情けなくなった。

 王宮にいたとき、一度たりともだれかに対して感情的に発言したことがなかった。それどころか、なにも言えなかった。どうせきいてもらえないし、二倍にも三倍にも四倍になって返ってくることがわかっていたから。

 正直なところ、それが鬱陶しかった。

 だから、どんなことをされても言われたりしても、きこえないふりをしたり気づいていないふりをしていた。

 その結果、「ソッポ王女」と呼ばれるようになった。いずれにせよ、どんな態度をとろうと同じだったわけ。

 それはともかく、大人げなくもダウリング侯爵邸を飛び出してしまった。

 後悔? そうかもしれない。反省? そうかもしれない。

 気がつくと、ポツリポツリと頭上のどんよりした雲から雨粒が落ち始めていた。
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