侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます
「ここは、この世の中心さ」

 老婆は、そう言って笑った。

 歯がまったくないことに気がつき、心の中で驚いてしまった。

「別名アビー街。あんたのような品のいいお嬢さんには、ここは掃きだめみたいなもんさ」

 老婆は、また笑った。

 アビー街……。

 その歯のない笑顔を見ながら、その名を知っていることに気がついた。

 カーディガンのポケットから紙片を取り出し、間違いないことを確認する。

「すみません。ここはすぐ近くですか?」

 その紙片を老婆に見せると、彼女はニンマリと笑った。

「ほら、そこに緑色の看板の飲み屋があるだろう? その飲み屋の二階だよ。だけど、行かない方がいい。ノーマンはやめときな。あんたのようなお嬢さんが付き合うような野郎(おとこ)じゃないよ」
「はい?」

 この老婆、もしかして魔女かシャーマン? それとも、聖女?

 どうしてノーマンのことを知っているの? 住所を見せただけなのに。

< 41 / 68 >

この作品をシェア

pagetop