侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます
「リエ」

 呼ばれた瞬間、侯爵がわたしを抱きしめた。

 彼はわたしをかばい、わたしのすべてを抱きしめた。

 彼はあたたかい。とってもあたたかい。

 なぜかそんなことを感じた。

「リエ、行くんだ」

 唐突に体が解放され、侯爵に押しやられた。

「ですが、あなたが?」
「おれは大丈夫。アール、リエを頼んだぞ」

 嫌だと言おうとしたけれど、侯爵はわたしに背を向けてしまった。そして、アールがカーディガンの裾をくわえてひっぱり始めた。

 そうね。わたしがここにいても足手まといだわ。

 そう思い直すと、走りだした。
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