紳士な俺様社長と離婚前提の契約婚!?
「いえいえ、そういうわけには参りません。それでは私の気が収まりませんので、どうか払わせてください」
だが男性の方も、一度口にした手前撤回するつもりはないようで、しばらくは互いに平行線を辿っていた。
このままでは埒があかない。
穂乃香がそう思っているところに、男性から折衷案が放たれる。
「では、提案なのですが。実は、あなたの香りが、私の好みでして。今夜こうして出会えたのも何かの縁でしょうし。どうか今夜一晩だけ、私と一緒に過ごして頂けませんか?」
だが彼からの思いもよらない誘いの言葉に、穂乃香は瞬時に凍り付いた。
バーでチラッとしか見ていないが、身に纏っていたスーツも磨き上げられた革靴も元婚約者と比較するのも烏滸がましいと思ってしまうほど、高級そうなモノだったように思う。
なによりゆったりと落ち着いた所作や立ち居振る舞い、醸し出す雰囲気が上品で美しく、知らず目を惹きつけられる。
大学を卒業し後新卒で入社して以来、秘書として会社の重役の下で働いている穂乃香には、この男性が相当な肩書きを持つポジションにいるであろう事は容易に想像できた。
なものだから、こんな豪華なホテルの宿泊代なんて目が飛び出るほどの金額に違いない。そう案じていたため、太っ腹発言と男性の真摯な対応に感動していたというのに、ここにきての変態発言。
その事に大きな衝撃を受けてしまっていたからだ。