紳士な俺様社長と離婚前提の契約婚!?
ロマンチックな夜に

 奏との穏やかで楽しい時間はあっという間に流れ、いつしか夕暮れ時を迎えていた。

 なんとはなしに物寂しさを覚えてしまっていた穂乃香の耳に、うっとりするほど甘やかな魅惑の低音ボイスが流れ込んでくる。

「せっかくだし、食事を済ませて帰ろうか」

 奏とは入籍する前から一緒に暮らしているというのに、未だに気を抜けばついうっかりと聞き惚れてしまう。

 ぽうっとしている穂乃香に、僅かに首を傾げた奏が「どうかしたか?」と視線を投げかけてくる。

「……え、あ、いえ。お任せします」

 少しの間を置いて、返事を返した穂乃香の様子をどこか楽しげに見遣った奏は、甘く眇めた切れ長の双眸をなおも蕩けさせる。そうして。

「じゃあ、行こうか。いい店を押さえてあるんだ」

 美しい美声を嬉しそうに弾ませた奏の運転する高級車に揺られて辿り着いた店というのは、都会の煌びやかな夜景と夜の東京湾とを眺めながら、旬の食材を使った絶品のコース料理を優雅に味わいつつ、日常とかけ離れた贅沢なひとときを堪能できるという、クルージングレストランだった。

 しかも大きな船ごと貸し切っているというのだから、穂乃香は驚きすぎてしばし言葉を失ったほどだ。
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