紳士な俺様社長と離婚前提の契約婚!?

 酔っているせいで潤みきって今にもとろんと蕩けそうな黒い瞳で奏の姿を捉えた彼女は、一瞬大きく目を見開いていたのだが、すぐに鬼のような形相で睨みつけてくる。そうして。

「私の前から今すぐ消えてって言ったわよね。なのに、どうしてマサトがいるの? もしかして、婚約者に浮気されて婚約破棄された上に、式場のキャンセル料まで払う羽目になった、哀れな私の無様な姿を笑いに来たって言うの? フンッ、馬鹿にして。けど、おあいにく様。あんたみたいなクズ男、こっちから願い下げよ。あんたなんかよりいい男見つけて幸せになってやるんだからッ!」

 奏のことをどうやら元婚約者だと思い込んでいるようで、恨み言を矢継ぎ早に言い放つとゴロンと寝返りを打った。

 それきり枕に顔を埋めたまま嗚咽を漏らしはじめてしまった彼女の様子から事情を察しはしたが、どうにも面白くない。

 自分好みの香りを醸し出す理想通りの女性に出会うきっかけを与えてくれたことには感謝している。

 だがこっぴどい目に遭わされたというのに、未だ彼女の中に元婚約者への感情が残っている所以だと思うと、胸の中にどす黒い感情がムクムクと膨れ上がっていく。

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