紳士な俺様社長と離婚前提の契約婚!?

 職場にもすっかり馴染んでいる穂乃香も例に漏れず、頭の中はゴールデンウィーク一色となっていた。

 普段学業とバイトに勤しんでいる弟の樹に、何か美味しいものでも食べさせてあげよう、と密かに計画を練っていたからだ。

 ――やっぱり焼き肉がいいかしら。

 などと呑気に思案している穂乃香の思考に、耳に心地良いバリトンボイスが割り込んでくる。

「穂乃香が仕事中に考え事とは珍しいな。雨でも降るんじゃないか」

 その声で現実に引き戻された穂乃香がはっとし顔を上げると、社長の端正な顔が思いの外近くに迫っていたため危うく心停止するところだった。

 午後一で開かれる会議への出席のためエレベーターで社長と一緒に移動中なのだが。

 ガラス張りの壁に背を向け扉の近くに立っていた穂乃香は、いつしか壁に追い込まれていた。

 いわゆる壁ドンの体勢で社長に包囲されてしまっている。

 驚かないわけがない。

 こんな状況に置かれて平然としていられる人間がいたならお目にかかりたいくらいだ。

 ーーな、なんなの急に。不意打ちで迫ってくるなんて卑怯じゃない! 心臓麻痺で死んだら訴えてやるんだから!

 ドキドキと加速する鼓動を何とか鎮めようと、心の中で悪態をつきつつ社長の胸を押し返した穂乃香は、謝罪の言葉を紡ぎ出すのが精一杯だった。

「も、申し訳ございませんっ」

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