紳士な俺様社長と離婚前提の契約婚!?
だが揶揄うような口調で揚げ足をとられてしまっては、穂乃香だって黙ってはいられない。
これ見よがしにツンとした口調で冷たく言い放った。
「ええ、そうですね。ですが社長とはプライベートでご一緒することなどあり得ませんので」
「……手厳しいな。俺の仕事ぶりを見て少しは見直してくれていると思ったが、まだまだだな。わかったよ。君には今後一切触れないと約束するよ」
「ご、ご理解いただきありがとうございます」
どこまでも平行線を辿るかと思われたけれど、社長は不服そうな口振りながらも意外にもあっさりと了承してもらえ、心底ほっと胸を撫で下ろした穂乃香だった。
だというのに安堵したのも束の間。エレベーターが目的の階に到着する寸前、背後から社長の腕が回され再び抱きしめられてしまう。
……そう思われたのだが、穂乃香の身体には触れずに腕で囲い込んできた。
たちまち社長の甘やかな香りと温かな体温とに包み込まれて頭がクラクラする。
穂乃香の言いつけを守ってはくれているが、これでは身動きがとれない。
すかさず文句を口にしようとした穂乃香よりも先に、社長から落ち着き払った低音ボイスが穂乃香の耳元で甘く囁きかけてくる。
「約束通り、君には指一本触れてはいないよ。これから役員の加齢臭と格闘するんだから、これくらいは許してほしいな」