紳士な俺様社長と離婚前提の契約婚!?
思いがけないアクシデント
午後七時を過ぎた頃。本来ならとっくに定時を迎えて帰宅している時間だが、穂乃香は取引先との会食に出席する社長の第二秘書としての役目を果たすため、柳本と共に社長に同行し格式高い高級料亭へと赴いていた。
「社長に就任してまだ間がないのに、今夜は無理に誘ってしまって悪かったねぇ」
上品な女将に案内された奥座敷に足を踏み入れた社長にそう言ってにこやかに出迎えてくれているのは、半導体メーカーの社長・浅葱《あさぎ》だ。
ここに到着するまでの車中、転職してまだ日の浅い穂乃香は柳本から浅葱についての説明を受けた。
何でも浅葱は結構な野心家らしく、国内に留まらず世界各国に進出しその名を知らしめた、竹野内グループとの結びつきをより強固なものにしようと考えているのだとか。
竹之内家との関係性を何としてでも深めようと手っ取り早い手段として、以前から会長を通じて奏に一人娘との縁談を持ちかけていたようだ。
けれど特殊な事情もあり奏はその都度キッパリと断っていたそうなのだが、まだ諦めてはいないらしい。