紳士な俺様社長と離婚前提の契約婚!?

「真っ赤になって恥じらう穂乃香が可愛くて……つい。悪かった。けど、穂乃香のおかげで会議も気の重い会食も頑張れそうだよ、ありがとう」
「……へ? い、いえ」

 社長の言動に右往左往する穂乃香の様子を実に愉しそうな表情で今一度見遣った社長は、小憎らしいほどに端正な相貌を嬉しそうにふっと綻ばせた。

 悪戯っぽくも甘い眼差しを向けられただけで、胸がドキンと高鳴ってしまう。

「じゃあ、行こうか」
「あっ、はい」

 不覚にも穂乃香が見目麗しい社長の微笑に見蕩れてしまっている隙に、社長はさっさと扉を開閉させるとフロアに降り立ち颯爽と歩みを進めていく。

 上質なオーダーメイドのクラシカルなネイビーのスーツに身を包んだその後ろ姿には、貫禄もあるがそこはかとなく色香と気品が漂っていて、実に様になっている。

 あたかもこれから『仕事のできる大人の男』をテーマにしたファッション雑誌の撮影にでも臨むメンズモデルのよう。
 
 出遅れてしまった穂乃香は高鳴ってしまった胸を鎮めるような暇も与えられないまま、慌てて社長の背中を追いかけた。

 ーー今夜は取引先との会食だってあるんだから、しっかりしなきゃ。

 会議室までの道中。穂乃香は仕事に頭を切り替えるため、心の中で自身にそう言って何度も言い聞かせていた。

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