フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
だがそんな自覚など持ち合わせていない穂乃香は、自身のおかれている状況などすっかり失念していた。
何としてもこの男の手から逃れてやろう、と正面から穂乃香の身体を壁に押しつけ拘束している男の急所めがけて右足を思いっきり蹴り上げる。
瞬間、何やら生あたたかな何かにヒットする感触がもたらされ、正面の男が両手を股間に宛がい苦悶に満ちた表情で声にならない声を漏らす。そしてその場に崩れ落ちた。
確かに手応えはあったけれど、これほどの威力があろうとは自分でも驚きだ。
――今度、社長に強引に迫られた時にでも試してみようかしら。
などと呑気に思っていると、出入り口の襖が豪快に開け放たれる大きな音が辺り一帯に轟いた。同時に座敷の灯りが灯される。
暗闇に目が慣れていたせいで、目くらましでも喰らわされたような心地だ。
思わず目を瞬かせている穂乃香の耳に、聞き慣れた低い声音が飛び込んでくる。
「穂乃香‼」
その声はこれまで一度も聞いたことがないほど切羽詰まったもので、耳にした穂乃香の胸は切ないぐらいにギュッと締め付けられてしまう。