フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
けれどそんな胸の痛みに構っているような余裕など穂乃香にはなかった。
なぜなら、穂乃香が社長の声を認識した際にも既に社長の腕によってしっかりと包み込まれてしまっていて、途端に言いようのない安堵感を覚えてしまう。
そうしてあろうことか涙を零してしまっていたのだった。
どうやら自身に課せられたミッションを何とかクリアしようと必死だったのと、奏に自分の痴態を晒すのを何とか阻止しようと必死だったのもあって、ピンと張り詰めていた緊張感があたかもプツリと糸が切れるように、急激に緩んでしまったようだ。
――や、ヤダ! 何で⁉ 人前で泣いたことなんて一度もなかったのに。よりにもよって社長の前で泣くなんて、信じらんない。
たちまち驚きと動揺で穂乃香の心の中が埋め尽くされていく。そこに。
「ほ、穂乃香? 泣いているのか⁉」
奏の驚きに満ちた低い声音が降らされた。
その声に、自身の反応に驚きを隠せずにいた穂乃香はハッとする。慌てた穂乃香は苦し紛れの弁解を口にする。
「あ、あのっ。す……すみません。こ、これは違うんです! ちょっと目にゴミが」