紳士な俺様社長と離婚前提の契約婚!?
熱に浮かされた狭間で
寝室で眠る奏の側に控えていた穂乃香が何気なく時計に目を向けると、いつの間にか時刻は午後六時を過ぎようとしていた。
季節は六月を迎え梅雨が近いのか、今日はどんよりとした曇り空が広がっていたが、すっかり日も暮れて辺りは夕闇へと変わりつつある。
シンと静まりかえった広い寝室で穏やかな寝息を立てて休んでいる奏の寝顔を前に穂乃香は、柳本に指摘されたことでしばらく落ち込んでいたが、何とか挽回しようと奏の看病に意識を集中させていた。
奏が眠っている間に額に滲んだ汗も幾度となく拭っていたし、いつ目覚めてもいいように、スポーツ飲料も常温にしてあるし中華粥も用意済みだ。
けれど看病するといってもできることなどたかがしれている。そのうちすることもなくなって、手持ち無沙汰の穂乃香は奏の寝顔をぼんやりと眺めて過ごしていた。
――それにしても、見れば見るほど綺麗な顔してるわよね。
バーで初めて奏の姿を目にした時にも「水の滴るいい男だな」とは思ったけれど、本当に怖いぐらいに整っている。
麗しいという言葉がこんなにもしっくりとくる極上の男性に、これまで穂乃香は一度としてお目にかかったことがない。
確か浅葱の一人娘が奏のことを慕っていると言っていたが、女性なら誰もが魅了されてしまうに違いない。
これほどの容姿に恵まれていながら特殊な体質のおかげで散々な目に遭ってきたなんて、本当に気の毒だなと思う。