フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
普段はキリリとしていて隙など一切見せない奏だが、眠っているせいか何だか少し幼く見える。
そのせいか奏のことが不憫に思えてくる。
――いくら匂いが好みだからって、何も私なんか好きにならなくても……。他の女性だったらきっとすぐに応えてくれただろうに。
そこまで思い至った穂乃香は不可解な胸の痛みに襲われてしまう。
ーーい、今の痛みってまさか。否、違う違う! そんなわけないでしょ!
ついうっかりおかしな思考が頭を掠めそうになったけれど、穂乃香は直ちに打ち消した。ちょうどそこに。
「……ほ、のか」
たった今目を覚ましたらしい奏のバリトンボイスが耳に届いた。
寝起きのせいか微かに掠れたその低い声音はただならぬ艶を孕んでいる。
あたかも呼び水のようにじわじわと作用して、あの夜の記憶を呼び起こしてしまいそうになる。
奏の声に安堵しかけていた穂乃香の鼓動はたちまちドクンと一際大きく拍動してしまう。
――こ、これもきっと、一夜を共にしてしまったせいに違いない。絶対にそうだ。そうに決まってる。
人知れず必死になって自身に言い聞かせてから目の前の奏へと意識を切り替えるのだった。
するとこちらの様子を窺うような眼差しで見上げている奏の視線と穂乃香のそれとがかち合いドキリとする。