おともだち

多江

 考えすぎるなって宮沢くんは言ってくれたけど、私はスマホの画面を見ながら動けずにいた。

 私発信の関係は私が動かないと始まらない、んだけど。これ、恋人よりセフレのほうがハードル高くないかと気づいてしまったからだ。

 だって、恋人なら会おうと誘ったら、それは何をするにしても“デート”の誘いだ。だけど、セフレなら誘いは“セックス”の誘い。それって、私が今……()()()ってことだ。

「うわぁぁ、恥ずかしい」

 私が欲しいのって、本当にセフレだったのだろうか。
 
 宮沢くんを呼び出すにしてももう話し合いは終わってしまって、有無を言わさぬ関係だった。何か、宮沢くん、正規の告白に意外だって思ったけど、セフレの提案を受け入れてくれてからはイメージ通りの宮沢くんで……どっちが本当の宮沢くんなのかわからなかった。

 彼の仕草、行動、視線の移し方……。やっぱり、こういう関係に慣れているとしか思えなかった。あの時――キスされるのかと思った。自然に触れる手は、頬に添えるでもなく指の外側で軽くなぞる、色っぽい目で見られれば、キスの合図だと思っ、あああ、無理。

 思い出しては羞恥に震える。でも、頬に触れたり、おでこにキスしたりするのだから、もうすでに同僚ではない。

 気軽な関係を求めて築いたセフレ相手に、落ち着かなく過ごす私はとても迷走している自覚はある。自分がしんどくならない彼氏が欲しくて、それは難しいから、いっそ欲しい時だけぬくもりをくれる存在。それがセフレ……。だと思っていたのに。

 私が求めていた関係に宮沢くんとなれるのかな。誘うのにこれだけ勇気が必要だなんて……。

 『明日、空いてますか』

 送ったメッセージに既読が付くまで私はまともに息が出来なかった。
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