おともだち
「どうかした? 」
「いや、俺の高校の同級生にも加賀美っていたなって思っただけ」
「ああ、珍しい……けど、そんなに珍しい名前でもないよね」
「はは、どっちだよ」
「まあ、いなくはない、名前? 」
「そうだな。そいつ、かっこよかったわけ? 仁科さんってどんな顔が好み? 」

 至近距離で見つめながら問われて、かっこよかったかも思い出せない。この人よりかっこいい人なんていないだろうし。好みか好みじゃないかという次元にいないんだな、宮沢くんは。

「どうだろう、一般的にどうかはわからないけど、私にとってはかっこよかったかな。好きだったわけだし」
「ふうん。ところで、大学どこだっけ」
「え、っと。R大」
「そっか」

 宮沢くんは自分から聞いたくせに私の答えに興味があるのかないのかわからない表情だった。なんとなく、聞いただけだったのか。私の恋愛観、やっぱり……単純に恋人を作るのは向いてないってことなのかな。

「あんまり恋愛経験多くないから。じゃあ、次は宮沢くん……」

 の、番だよ。そう言おうとしたのに宮沢くんの私の髪に伸ばされた手に身体が動かなくなってしまった。まだよく知らない人との第一歩。恋人のように少しづつ育んで恋に至ったわけじゃない関係は、同じように鼓動が激しくなるのに、これでいいのかなって罪悪感を伴う。

 ――私、やっぱり間違えているんじゃないかな。

「で、どんな顔が好み? って質問、まだ答えてもらってないけど」
「あ、うううん。えっと、ええええええーっと」

 体の距離に反して予想した展開にならず、私はきつく閉じていた目を開けた。これ、いつ来るのかわからなくて緊張しっぱなしだよ。
「会社の人に例えたら誰」
「え、会社の人!? 」
「だって、共通の知り合いってそこしかいないじゃん」
「ああ、そうか……。って、芸能人とかでいいんじゃないの」
「ダメ、会社の人。芸能人なんてリアリティないっしょ」

 いや、あなただってリアリティない外見をしてらっしゃるのに?
 会社の人、会社の人……私は必死に思い出しながら頭の中で会社を歩いてまわった。もちろん社員全員は把握しきれていないけど……。
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