おともだち
第3話

栄司

 思ったより収穫が無くて苛立っていた。

 足を止めて空を仰ぐと、はぁ。ため息が出た。ぐしゃぐしゃに髪を乱すともう一度ため息を吐く。
 あー、イライラする。ただ元彼の話聞いただけじゃねえか。

 多少の違いはあるだろうけど、普通の恋愛観だよな。全然普通の範疇。実る恋もあって実らない恋もあって、引きずったりそうじゃなかったり。何で人と付き合うの向いてないって結論に至ったのかわからなかった。
 人と付き合うのに向いてないじゃなくて、付き合った相手がたまたま“なんか違った”ってことじゃねぇのかな。あの違和感の正体って。そうであればいいなという俺の希望なのかもしれない。

 加賀美かぁ。そこにカギがあったりしないのか。引きずっている、とか。つい、俺の知ってる加賀美で想像して、違うよな、と頭を振った。どんな男なんだろうか。それと、辰巳主任。適当に人気のある人じゃなく、妙にリアルな名前が出て来たな。俺にとってはパッと顔の出る人じゃなくて、ぼんやりとしかわからないけど、あの席に座ってる人だよなあ。

 ああ、イライラする。
 よくぞ頑張って最後まで聞いたわ、俺。
 元カレ話や辰巳主任の話を聞いてこんなに苛立つということは、ただムキになってるだけじゃなく、俺は彼女の事をちゃんと好きなんだろうか。

 イライラの原因を探ろうとさっきまでの彼女を思い出す。無抵抗にされるがままの姿、香り、肌の感触。

 今すぐ引き返して、思いのまま押し倒してやろうか。セフレ()にはそれが許されているのだから。平日だと言ったって、自分勝手に搔き抱き、終わればさっさと帰ってもいい。セフレだから。彼女だってそういう気分だから俺を呼んだんだろう。彼女が俺の過去に興味を持ったのは意外だったが。

 ――俺たちはそういう関係なのだから。

 だけど、彼女をそう扱いたくない俺は……やっぱり、彼女のことが好きなのだろう。
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