おともだち
 今度は、彼が意外そうな顔をしてパチパチと瞬きを繰り返した。まっすぐ見られていたたまれなくなる。
「いや、すみません。不躾に」
「ああ、もう7年かな。どうしたの、君……も、……結婚してないよね。えー……」

 正直な()()()吹き出して、彼が言わんとすることを代弁した。
「結婚なんて、()()()()()()でしょ、俺」
 つい、俺って言ってしまったけど。揃って手を洗うと彼はポケットから出した綺麗にアイロンが当てられたハンカチで手を拭いた。

「ここのペーパータオル切れてるね」彼はそう言うと笑顔を向けた。
「悪い意味で言ったんじゃないけど、あまりいい気はしないよね。申し訳ない」
「いえ、何となくそういうイメージあるんだろうなって知ってます」

 まぁ、あなたんとこの部署の女性から教えてもらったんですけどね、と心の中でぼやく。

「それが不本意なんだね。ってことはそういう願望が? 」
「まあ、いずれはというぼんやりしたものですが。今は相手がいないもので」

 彼が、また意外そうな顔を向けたので
「特定の、ではなく、()()()()()()()()
 強調して言うとついに彼は声を出して笑った。
「あはは、そっか。いや、それだけ秀でた容姿ってことだろうね。君くらいになるとモテすぎて、逆にモテないんだろうね」
「意味がわからないですが」
「高嶺の花過ぎるってことだ」
「知りません、そんなの」
 彼は俺が不貞腐れたことに苦笑した。
「みんな、君が恋人募集中ってことを知らないだけだよ。例えば、普通の女子は自分が君の恋愛対象に入るなんて、夢にも思わないんだろうね」
「いったい人を何だと思ってるんでしょうか」
「はは。あくまで僕の憶測だよ。君が恋人を欲しがっているのに出来ないのだとしたら」
「当たっている、のかもしれません。モテる前提の扱いはされますが、モテないので」
「その代わり、君から行った場合振られたことは無いんじゃない? 」

 確かにそうだった。ごく最近の一例を除いては。
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