おともだち
 会社の人に飲みに行かないかと誘われた日。――仁科さんと初めて話したあの日のことだけど。

 声を掛けてくれた人に「行く」って言ったら意外そうにされた。あれって、そういうことだろうか。
 一応声を掛けただけ。飲みに行く約束をした時に俺が近くにいたから、声を掛けないのも悪いとでも思って声を掛けただけだったのか。

 俺は会社の飲み会に顔を出すタイプじゃないってことか。今まで声を掛けられたことも無かった。仕事ではうまくやってるし、特に不便はない。飲みたい気分の時は友人と行くか一人にも抵抗はない。

 あー……なるほど。

 もしかすると俺は、気さくさが足りないのかもしれない。もっと会社の人と、コミュニケーションを……。いや、わざわざ?プライベートで取る必要があるか?

 まぁ、もう少しそのイメージというものを崩してもいいのかもしれない。女友達は今作る必要はないが、会社の女性と砕けた話をするくらいいいんじゃないかな。例えばちょっとした恋愛観なんか、話すとか。

 この日から、少しだけど会社の人と話す努力をした。仕事以外の話をする努力を。それが、仁科さんを落とすのに直接役立つわけじゃないかもしんないけど、イメージの改新には有効だろう。

 セフレがいそうなんてイメージは払拭するに限る。

 ……いや、俺。
 今、イメージどころか、リアルにセフレいるんだったわ。
 そっかー、俺今セフレがいんのか。まだ、やってねー……。

 関係性なんて、勝手に名付けただけで、やってねぇんだからセフレじゃねえ。セを取った、フレンド。友達か。俺、今初めて女友達がいるのかもしれない。向こうに好意を寄せられない()()()()()()女友達が。

 考え事をしていると、ふと、感じた女性社員からの視線に気づき、気さくさを装って微笑む。向こうは顔を赤くして一礼して去って行った。
 ……何なの、あれ。俺って、何なの。どういう存在なのよ。
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