おともだち
「宮沢さん、どうしたんですか、朝一で総務なんて。言って下されば私が……」
「あ、いいんだ。大した用事じゃなかったから」
 事務の子に断りを入れたものの、就業時間前に行ったのが大した用事じゃないものかと不審な顔だ。何だったのかと尋ねられたら困るので適当に愛想笑いをして切り抜けた。

 俺って、社内でどんなイメージなんだろうか。気にしたこともない自分の評価、しかも仕事外の事が気にかかった。
 特定の彼女がいなさそうだとか、結婚なんて興味無さそうだとか、ごく近しい女性に対して恋愛対象として見ていないだとか。

 そりゃあ、仕事中にそんな品定めのような事はしないさ。だけど、プライベートな一面だとか、そういうシーンで出会えば異性を意識したって仕方がないと思う。感情だし、そう思おうと思って好きになるわけじゃないし。

 俺から押せば、振られない?
 ……俺、告白されて付き合ったことないな。いつも俺からだ。断られたことはない。何となくうまく行かなくなって別れることが多い。これってどういうことだろう。

 チラリ、同じ部署の女性たちに目を走らせた。聞いてみたくなる。
 “ねえ。俺が好きって言ったらどうする? ”

 ……ヤバいな。どうかしてる。絶対に落とす自信があったのは振られたことがないから……か。
 
 こういうの、誰に聞けばいいんだろうか。わかんねー。恋愛相談なんて、したこともされたこともないし。

 そう言えば俺、女友達がいない。友達だと思っても、向こうはそうは思っていないことで成り立たなかったからだ。すぐに、好意を感じてしまう。俺の事を大して知らないのに寄せられる好意は相手を傷つけないように、だけど、確実に避けた。煩わしいことにならないように。

 絶対に落とす、かあ。
 特定の彼女が欲しいとか、結婚したいのとか出していけばいいのか。“セフレ”を求めている彼女に相反する思考に確実に目指す方向を見失っていた。

 2回の手札はまだ使うのには早すぎる。なのに、既に手詰まり感が出てきた。

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