おともだち
「マントヒヒ。マントヒヒってしりとりじゃあ絶対出てくんのに、実物見んの初めてかも。お前かぁ、しりとり界のスタメンは」
 私の気持ちも知らず、宮沢くんは無邪気に子供みたいなことを言ってる。

「何それ」
「しりとりしたら出てくんだって、マントヒヒ」
「ほんと? 」
「うん。じゃあ、しりとりの()
()んご」
()りら! 」

 宮沢くんは、そう叫ぶとゴリラの檻へと急いだ。

「ちょっとー、マントヒヒじゃないじゃん。ゴリラじゃん」
「ははは! ()ッパ」
()イナップル」
 まだ続くんだ、そう思いながら付き合う。
「ルビー」
「ビーだま……あ! 」
「「マントヒヒ」」
 声が重なると宮沢くんは満足そうに頷いた。「な? 」
「まあ、うん」
「今度からちゃんとアイツ思い浮かべながらマントヒヒって言うわ」
「何それ。しりとりなんて滅多にしないでしょ」

 宮沢くんはうん、と言ったあと私を柔らかい表情で見つめる。しっかり目が合うと
「またしよう」
 って私を誘った。……また。ただ、しりとりに誘われただけ、それがどうしてこう意味深に聞こえてドキドキしてしまうんだろう。言ってることは子供っぽいのに、間の取り方がとても……うまい。勘違いしそうになる。宮沢くんがどういう意図で手をつなぎ、どういう意図で私と動物園に来たのか全く分からなくてこの表情からもわからなくて、だからこそずっと彼が気になってしまうんだと思う。

 結局私は――どうしたいんだろう。恋愛の美味しいところだけが、うまく行ってない気がする。

「さ、次はどこ行く? 」
「えっと、道なりで」
「OK」

 宮沢くんはマップを確認し、くっと私の手を引いた。
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