おともだち
 動物園を出る頃にはちょうどいい時間になっていた。
「ご飯食べて帰るだろ? 」
「そうだね」
「車だし飲めないから一旦帰るか、宅飲みするか、俺は酒なしでこのまま帰りにどこか寄って帰るか。どれがいい? 因みに宅飲みなら俺んちになるな、帰り車で送ってあげられなくなるけど、どれがいい? 」
「明日も休みだし、飲みたいな。……あと、宮沢くんの部屋行ってみたい」

 多江は俺の家を選んだ。事前に掃除はしてあるし、来てもらっても大丈夫だ。えーっと、部屋の状態は。俺は部屋に呼ぶ人は厳選している。家を選択肢に入れたのは前回多江の家に入れて貰ったのもあるけど……俺が家に入れてもいい人だと判断したからだ。 
 
 家に入れてもいい、それは関係を進めたいと思っているということで。思ってはいるんだが、関係を進めるつもりが脇道に逸れ、どう軌道修正すべきか……。部屋に二人はなかなかに忍耐を強いられる。もし、付き合っているなら、部屋に来た時点で雰囲気読んで何かしたって構わないってのに。セフレの方が出来ない矛盾。いや、彼女がそう望んでいるんだから手を出したって構わないんだけど、身体からの挽回の方がハードルが高い。何より、惚れさせなきゃならない状況で、ややこしくしてる場合じゃない。
 多江も意味わかんない状況でもやもやしてるだろうしな。そう考えるとちょっとしてやったりと思わなくもない。

 ふん、ちょっとは翻弄されればいいんだ、俺に。

 つくづく策に向いてないことを自覚させられ、俺は俺の策に翻弄されていた。……これで、いいのだろうか――と。
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