おともだち
「多江、一人暮らししてみたら? 」

 奈子の提案は思ってもみないものだった。そっか、その手があったかと思うと同時に、許してくれないだろうという確信のようなものがあった。

「や、無理だと思う」
「うーん。さすがに社会人になって自分のお金でならとやかく言われても強行したらいいんじゃない? 」
「それは、そうなんだけどさ」
「じゃあ、私と一緒に住むっていうのは? 」
「……それだ! 」
 
 私は立ち上がり、ビシッと奈子を指さし、奈子はニヤリと笑った。

 そして、その計画を実行したのは――23歳になる年だった。

「一度ね、家を出たいなって思っていて。社会人になるんだし、自立を目指して。今まで甘えっぱなしだったし。一度現実を知るのって大事だと思うんだ。家事と仕事の両立とか、自分だけでやってみたい。家から会社は遠いし、利便性も考えて。いずれは家を出るじゃない? 練習っていうか、いまのうちに練習っていうか、その、奈子が一緒に住もうって言ってくれて! 」

 家族が揃うリビング。
『家を出たい』と言った瞬間の家族の冷ややかな表情に焦り、何を言っているのか途中で見失いないながらも、奈子の名前を言えば何とかなるかと言い切った。

 チラ、チラ、とそれぞれが視線を送り合い、
「社会人一年目は何かと大変よ。慣れてからでもよくない? 」
 母が言った。
「うん。そうだぞ。ここは遠いったって、家に帰れば誰かがサポートしてくれる」
 父は母の意見に加勢した。
「そう、だからちょっと早めに行って、一人暮らしが慣れた頃に入社したらいいかなって」

 そこから、みんなでああだこうだ意見を出し合っていたが、『奈子と一緒』が効いていた。ずーっと私と一緒にいる奈子の信用度は高かった。それと、みんなどこかで私を甘やかしている自覚はあったのだろう。

 最後は渋々ながら許可してくれた。

 一番上の兄、彰人が「じゃあ、俺も出ようか」と言ったのは「だめ。アキ会社遠くなるじゃん」と逃げきった。危ない、危ない。

 兄たちは実家に寄生してるわけではなく、それぞれの利点が合致して共同生活を続けている感じなのだ。たぶん、兄たちがいなくなると家事をしない母が大変だと思う。母が彰人が出て行かないとなるとちょっとホッとしたのがわかった。


 
 
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