おともだち
 楽しい時間はみるみる過ぎて行き、まだ鳴らないアラームにホッとして時計を確認した。終電にはまだ余裕があるけれど、私たちの関係性のメインであることをしようと思えば、そろそろ時間的に厳しい。

 小まめに時間を確認するせいで楽しそうにしていた栄司も時計へと目を移した。
「まだ大丈夫でしょ」
 栄司が時計から視線を戻したタイミングでバチっと目が合った。……すごく、近い距離で。私の左肩に触れているアルコールの入った栄司の身体は熱い。私たちがこういう関係じゃなかったとしても流れでそうなりそうなくらい、完璧なシチュエーションだったと思う。栄司も目を逸らそうとはしなかった。逸らさない代わりに、私はゆっくりと目を閉じた。

 ――キス。
 それも、セックスの始まりの合図のキス――。

 が、いつまでも近づく気配が無く、そっと目を開けると栄司は二ッと笑って私の鼻先をピンっと弾いた。
「いっ」
「無防備にしすぎー。ほら、眠くなってんじゃない? 」
 
 ……今、かわされた、よね?
 お酒のまわったぼんやりとした頭で、つい……聞いてしまった。

「ねぇ、しないの? 」

 栄司の綺麗な目が見開かれると、直ぐに笑顔に変わった。

 「しない……かな。今は。したいならするけど? 」
 栄司はいたずらっぽく瞳を揺らした。

「ん、いいかな、今は」

 私はそう答えた。
 怖くもあった。セックスすること、ではなく、してしまったら今の関係が変わるかもしれない。そう思ったから。だって、今日はすごく楽しかったから。

 私の気持ちが今よりもっと進んでしまったら。栄司の興味が私から失われてしまえば。

 栄司の横顔を見つめる。微笑んでいるものの、目には何も映っていないようで、

 栄司は今、何を考えているんだろう。……わからない。
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