初めての愛をやり直そう
「ちょっと、いい?」
「え? あ、うん」

 二人は駅のベンチに座った。

「島津君、最近よく通ってくれるよね」

 その言葉に拓斗の顔が真っ赤に染まった。

「どうして?」
「…………」
「あ、ヘンな意味じゃないの。あの、私、うれしかったから。会いに来てくれてたんでしょ? 私を目当てに通ってくれたって、うれしくて。ありがとう」

 拓斗は言葉もなく真っ赤になりつつ、ますます俯いた。

「神様ってひどいよね。神野さんみたいに、きれいでモテモテの人を作るくせに、私みたいなイマイチってのも作るんだから。ひどいと思うよ」

 拓斗は俯いたまま無言で茜の言葉を聞いている。

 心の中には、ぜんぜんイマイチじゃない、という言葉がグルグル回っている。

「私、ずーっと神野さんが羨ましくて、私もあんなふうに生まれたかったなぁって思ってたの」
「もしかしてさ、いつも窓の外を眺めているけど、そんなことを考えているの?」

 茜がうふっと笑った。

「まぁね。私もモテたいなーって。羨ましいじゃない。モデルのプロダクションに合格するんだよ? 羨ましいよ」
「…………」

 再び黙り込んだ拓斗を茜が下から覗き込んだ。

「島津君、いつもってさ、いつも私を見ていたの?」
「え!」

 茜の言葉に拓斗は飛び上がって驚いた。同時にますます顔が真っ赤になり、今にも爆発しそうになっている。

「あ、いや、それは!」
「あははは。なにボケッとしてるんだろう、授業も聞かずにって思ってたんじゃないの?」

 茜はもう一度クスッと笑い、今度は空を見上げた。

「ぐちゃぐちゃ悩んでた時、メイドのアルバイト募集の紙を渡されて、思わず『私なんかでもできるんですか?』って聞いちゃったの。そしたら絶対大丈夫って言われて、それが誰にでも言ってる言葉だってわかっていてもうれしくて、バイトすることにしたの」

「…………」

「誰だってモテたいじゃない。学校じゃごくフツーで、男の子になんか相手にされなくても、メイドカフェでメイドさんやったら、みんな笑いかけてくれて、喜んでくれる。私を目当てにお客さんがきてくれる。それがうれしくて、辞められなくなってさ。それにお客さんがついたら店の中でも鼻が高いの。メイドの中でも妙な競争というか、上下の意識があって、私ってば下のほうだから、島津君が通ってくれて、すごく鼻が高かった。しかも知り合いって顔しないから、みんな純粋に私目当てって思ってさ。ホントにうれしかったの。ありがとう。お礼、言いたかったの」

 茜は拓斗の無言に気落ちしたのか、話すトーンが下がった。

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