初めての愛をやり直そう
 3Dのアクション映画は大迫力で、二人は観終えた後も興奮冷めやらぬといった状態だった。

 ファストフードでランチを取りながら、映画の内容をあぁでもないこうでもないと言い合い、盛り上がった。

 その後、渋谷に出向いて竹下通りを歩いていたが、拓斗は茜の顔が冴えないことに気づいた。

 笑顔は笑顔だが、ふと暗い顔をする。いつもと様子が違う。心配事でもあるのか、会話の途中から返事をしなくなる。最初は無視していたが、そろそろ日が傾き始めた時刻になると、我慢できなくなった。

「ねぇ、なんか上の空だよね? なにかあったの?」
「…………」
「映画の話では盛り上がったけど、それ以外はなんというか、気持ちが入ってないって感じがして……俺とじゃつまらない?」
「え!? そんなことない! すごく楽しいよっ」
「ホント? なんだか冴えない顔してるけど……」
「そんなことないって」

 二人の目が合った。茜はまっすぐ見つめる拓斗の視線を受けると、今度は怯えたように俯いた。

「榛原?」
「やっぱり……神野さんのほうがいいんじゃないかと思って」
「え? 神野?」

 コクリと茜が頷く。それに対し、拓斗はなぜここで神野の名前が出てくるのか、理解できなかった。

「なんで?」
「昨日……その、気になって……」

 気になって職員室までついていった――途切れてしまった茜の言葉を拓斗は察した。

 そして神野から家庭教師をしてほしいと頼まれたことも聞いていた、と。

「私じゃ、その、迷惑じゃないのかな?」
「どうして迷惑なんだよ」
「だって……男の子って、やっぱり神野さんみたいなきれいな子で、胸とか大きい子のほうが好きなんじゃないの? 家庭教師引き受けたら、その、つきあえるかもしれないよ?」
「なんで俺が神野とつきあわないといけないんだよ。俺が彼女のこと、なんとも思ってないの、知ってるだろ?」
「…………」
「頼まれても家庭教師なんかイヤだし、映画も観に行く気もないよ!」

 強い口調でそう言った拓斗を、茜が顔を上げて見つめた。その目にうっすら涙が浮かんでいる。

 昨日、神野に言い寄られている姿を見て不安になっているのだ。

 それは拓斗を大事に思っているからこそのことで、その思いが拓斗にはたまらなく愛しく感じられた。

「ちょっと、こっち」

 茜の腕を掴んで歩きだす。

 引っ張るようにして強引に茜を連れて進む。代々木公園に入り、人通りの少ない場所にやってきた。

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