初めての愛をやり直そう
 今日は拓斗が予備校の日だ。

 茜は早々と学校を後にし、本屋に向かっていた。とにかく料理の本を見るのが好きだった。分厚い専門書は高くてなかなか手が出ない。だからこそ本屋に通い、レシピを読んで覚えることにしていた。

「榛原さん」

 いきなり声をかけられて振り返る。

「……え」

 意外な人物が立っていた。

「あ、神野さん……なに?」

 学園のアイドルであり、グラビアアイドルとして最近少しずつ認知され始めている美人。なんとなく、しかし確実に恐怖感が湧いてくる。

 男子生徒達にちやほやされている様子が羨ましくて、妬いた末にメイドカフェでアルバイトを始めた過去がある。

 神野本人はそんなことなど知るはずもないが、一方的に羨んで妬いた茜には苦手意識が強かった。

 さらに拓斗に向かって家庭教師をしてほしいと頼んでいた姿も見た。茜の顔は強張っていた。

「ちょっと話があるの。いいかな?」
「あ、うん」

 誘われてついていくと、神野は高そうなカフェに入ろうとした。

「あの、神野さん、私、あんまりお小遣いないの。お店なら、もっと安いところが」
「私がご馳走するからいいわよ」
「でも」
「うるさいトコ、嫌いだから、私」

 神野がそのまま店に入っていく。茜は仕方なく後に続いた。

 テーブルに案内されて座り、ドリンクをオーダーする。そのドリンクが運ばれてくると、神野は鞄からパンフレットのようなものを取りだして茜に見せた。

「私が所属してるプロダクションのモデル募集のパンフ。榛原さん、応募してみない?」
「え!?」
「大丈夫。欲しいのはグラビアアイドルだけじゃないから。いろんなジャンルでいろんなタイプのモデルが欲しいのよ。紹介だと一次審査パスだから受かりやすいわ」
「……でも」

 神野は意味ありげな妖しい笑みを浮かべた。

「榛原さんなら二次も受かるわ。よほどブッ細工じゃない限り大丈夫だし。それに庶民的なタイプのタレントもいるのよ」
「…………」
「最終的に受かるか落ちるかは本人次第だから。でさぁ、こんな話を榛原さんにフルのにはわけがあるの」
「わけ?」

 神野が、うん、と頷く。

「この前、駅前のファミレスで島津君と勉強してるの見かけたんだけど」

 茜がハッと息をのんだ。同時に神野がますます妖しげに笑った。

「榛原さんってさぁ、もしかして島津君とつきあってる?」
「…………」
「ねぇ」

 茜の心臓がドキドキと早鐘を打つ。

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