桜いろの恋
「……早めに帰らなきゃな」
あっという間にハンバーグ弁当を平らげた尚樹は、窓に目を遣りながら、ぼそりと呟いた。
窓の外にはぼたん雪が見える。白い花びらみたいに一枚ずつ降り注いで毛足の長い絨毯みたいに一晩かけて、しんしんと降り積もっていく。
──私の尚樹への想いとおんなじだ。
濁りのない真っ白な想いは一粒一粒ゆっくり心に降り積もって、気づけば身動きできないほどに尚樹への想いで心が溢れかえっている。
「美夜」
「うん、本格的に積もる前に送るから」
積もると車が出せなくなる。いつも私が独り占めできる時間は短くて、本当はもっともっとと欲張りそうになる。尚樹に手を伸ばして心を掴んで離したくなくなってしまう。
「……そんな泣きそうな顔すんなよ」
「してない」
「美夜、泣きそうじゃん」
「しつこいなぁ。泣いてないったら」
わざと頬を膨らませて、むっとした顔の私をみて尚樹が困ったように笑う。
「見せて」
尚樹は立ち上がると私の頬を持ち上げて切長の瞳でじっと私を見つめた。思わず目頭が熱くなる。私の頭を尚樹が、大きな手でくしゃっと触れた。
「やっぱ泣いてんじゃん」
「よく見て、泣いてないでしょ」
口を尖らせて精一杯、瞳の雫を押し込めて、尚樹の瞳を見つめかえす。
本当はいつもいつも涙は溢れてる。尚樹といつも一緒にいれないことも、尚樹が必ず帰ることもわかってるくせに心が苦しくなる。心の中にも雪が積もって苦しくて息ができなくて、押しつぶされそうだ。
「あ、ほんとだ。目おっきいから潤んで見えただけか」
尚樹は私の頭をポンと撫でると触れるだけのキスを落とした。そして手元の腕時計を確認する。尚樹が帰る合図だ。
「そろそろ送るね」
「そだな……」
私はスーツのジャケットを取ると尚樹に渡して車のキーを握りしめた。
あっという間にハンバーグ弁当を平らげた尚樹は、窓に目を遣りながら、ぼそりと呟いた。
窓の外にはぼたん雪が見える。白い花びらみたいに一枚ずつ降り注いで毛足の長い絨毯みたいに一晩かけて、しんしんと降り積もっていく。
──私の尚樹への想いとおんなじだ。
濁りのない真っ白な想いは一粒一粒ゆっくり心に降り積もって、気づけば身動きできないほどに尚樹への想いで心が溢れかえっている。
「美夜」
「うん、本格的に積もる前に送るから」
積もると車が出せなくなる。いつも私が独り占めできる時間は短くて、本当はもっともっとと欲張りそうになる。尚樹に手を伸ばして心を掴んで離したくなくなってしまう。
「……そんな泣きそうな顔すんなよ」
「してない」
「美夜、泣きそうじゃん」
「しつこいなぁ。泣いてないったら」
わざと頬を膨らませて、むっとした顔の私をみて尚樹が困ったように笑う。
「見せて」
尚樹は立ち上がると私の頬を持ち上げて切長の瞳でじっと私を見つめた。思わず目頭が熱くなる。私の頭を尚樹が、大きな手でくしゃっと触れた。
「やっぱ泣いてんじゃん」
「よく見て、泣いてないでしょ」
口を尖らせて精一杯、瞳の雫を押し込めて、尚樹の瞳を見つめかえす。
本当はいつもいつも涙は溢れてる。尚樹といつも一緒にいれないことも、尚樹が必ず帰ることもわかってるくせに心が苦しくなる。心の中にも雪が積もって苦しくて息ができなくて、押しつぶされそうだ。
「あ、ほんとだ。目おっきいから潤んで見えただけか」
尚樹は私の頭をポンと撫でると触れるだけのキスを落とした。そして手元の腕時計を確認する。尚樹が帰る合図だ。
「そろそろ送るね」
「そだな……」
私はスーツのジャケットを取ると尚樹に渡して車のキーを握りしめた。