桜の下で微笑むキミの夢を見る
「え、わかりますか? 先生鼻いいですね。実はわたしずっと入院してるんです。でも、このサイン会絶対来たくて、もう必死にお願いしまくって外出許可勝ち取ったんです!」
眩しい笑顔を見せて、少女は「えへへ」と控えめにピースして見せた。
佑馬は、少女のまとう病院のにおい──大嫌いなにおいで表情が歪んでしまわないように気を付けながら、彼女の購入した本を受け取る。
今回のサイン会では、佑馬の著作が全て対象になっている。発売したばかりの最新刊を持ってくる人が多かったが、彼女が持ってきたのはデビュー作だった。
「わたし、櫻田先生の作品の中でこれが一番好きなんです。もう二冊持ってるけど、サインもらうならやっぱりこれしかないと思って!」
「ありがとうございます。僕もすごく思い入れのある作品だから嬉しいです」
佑馬はこれまでと同じようにサインを入れようとしたが、ふと手を止めて、もう一度少女の目を見た。
「……お名前は?」
「え? わたしの?」
「もちろん」
「り、リサです!」