この消しゴムは誰のですか?
 近すぎるのが苦しくて、そわそわとして落ち着かないから、このまま席を立ち教室から飛び出したくなってしまう。

 机と机をくっつけて一つの教科書をシェアすることは、僕に授業を放棄させるほどに心がザワつくんだ。

 だからこの忘れ物女子には、時間割りを毎日10回ほど見直して完璧にしてほしいと日々願っていた。

 1時間目が国語で、2時間目の数学の教科書は奇跡的にカバンの中にあったらしい。
 3時間目が英語。英語の教科書は残念ながらカバンの中にはなかったらしい。
 3時間目が始まる時、1時間目と同じ事をされた。
 僕の机と忘れ物女子の机との境界線は曖昧になる。
 
 もう本当に勘弁して欲しい。
 
 中学三年生の僕は、来年には難易度の高い高校受験を控えている。学校の授業は僕にとって復習の場。塾で叩き込まれた知識を脳細胞に徹底的に定着させる場だ。その復習の場をこんな忘れ物の多い女子に足を引っ張られている場合じゃないんだ。

「カバンの中に教科書がないから悪いとか、いつも君はそんなことを言うけど、良く考えてみてくれよ。カバンの中に欲しい教科書がないということは、君が昨日真剣に時間割りをしなかった証だろ? カバンのせいにするなよ!」
 
 それに、僕もなんだか迷惑なんだ。
 隣の席の女子が、教科書を忘れて先生に怒られる姿は見ていられない。
 彼女は怒られようがのほほんとして平気な顔をしているが、僕の心臓は苦しくなって、とても早くなる。だから昨日ちゃんと時間割りをしとけとあれほど言ったのに。と、届かない思いに心が荒れてしまう。
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