変化の色
 
「そうね。楽しみかも」
 
 そう微笑むと、千尋ちゃんの瞳は輝いた。

「これ、夏休みの宿題の自由研究にするんだ。物語はまだ始まったばかりだよ。だけど私、絵が下手で幼稚園児みたいになっちゃうの。イラストがどうしても幼稚すぎて物語と合わないの……」
 
「観察日記だよね? 物語って一体……」
 
 意味不明すぎて質問するが、千尋ちゃんの目は輝いていて、私の声は届かない。
 
「この二人は愛し合ってるのにお互いにハグすらできないプラトニックラブ中なの。
ちなみに緑の頭でっかちの子がクリスティーナで、緑に黒が混じった子がアレックスね。
クリスティーナは別の親たちの子なんだけど、生まれてすぐに親がいなくなっちゃって…。かわいそうな幼きクリスティーナをアレックスの両親が引き取ったの。
親は違えど兄妹……。結ばれぬ関係……。
だからお互いにテレパシーで約束したの。
サナギになって脱皮して、キレイな羽を持ったなら、どこまでも一緒に自由に飛ぼうって……!!」
 
 なんだそれ……。

「ちーちゃん。幼虫達に名前つけたの? クリスティーナとアレックスって…」 
 
 千尋ちゃんは空を仰いだまま完全にいっちゃっている。

 さっき、純粋に変化する姿を楽しみにしている千尋ちゃんを羨ましがった私の思考は一気に覆された。

 なんて妄想を小4がしているの……。

「……あの、その物語のイラスト、私が手伝うの? ってか、夏休みの宿題の自由研究だよね? 自由研究っていうのは見たままの真実を観察して記録するものだよ? 知ってる?」

 唖然とする私に千尋ちゃんは、

「もちろん! 自由研究って自由が付いてるから自由でいいんだよね?」
 
 と強く頷き、リュックサックの中から観察日記を取り出した。

 ページをめくると、びっしりと文字が敷き詰まっていて、ざっと読んでみると日記と言うより小説のような文章だった。
 観察イラストの部分は、挿絵風にしたいのか、所々に空白が設けられている。
 
「和希がね、イラストなら絵の上手い美咲に頼めば完璧だって言ってたの。だからみさきねえにおねがいします! 一緒にいい作品作ろうね! この子達、これからどうなるのか楽しみだね!!」
 
「……作品?」
 
 唖然としてそれ以上声も出せない私に、千尋ちゃんは懐かしい笑顔を浮かべて笑った。
 
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