バカの傘
 私は雨が好きだ。
 雨が好きな自分が、自分らしいような決めつけなのかもしれない。

 会社帰り、自宅の最寄りのバス停でバスを降りてから家路を歩く時、突然の雨に降られても、なるほど、と思うだけだ。

 ただ家に帰る時は、降られて全身濡れながら帰るのも、ドラマの主人公のシリアスなシーンになりきれて面白い。

 なりきりヒロインごっこだ。

 少し前の失恋も、その痛みも、全てこの雨で流してしまうようなイメージで、ひたすら雨に打たれる。

 帰ったら、すぐにシャワーを浴びて服を着替えればいいだけの話だ。

 私は雨が好きだから、鞄の中にある折り畳み傘は、雨が降ってもよっぽどじゃない限り取り出すことはしない。

 帰り道の雨なら、わざわざ折り畳み傘を出して使っても、それを乾かして複雑に畳んで片付ける事の方がめんどくさい。

 断然、濡れて歩いて帰るを選択する。
 
 ただ家に帰るだけ、の時に降る雨降りは、なりきりヒロインごっこに丁度良い。
 雨祭りを楽しむ蛙のように、雨の音と身体に当たる冷たさを味わえる。
 私はこの感覚を感じられる、生きている人間なのだと、再確認できるのだ。
 乾いたアスファルトが雨で濡れる時の臭いも、序章の雨といった感じでさらに雰囲気が出る。
 なりきりヒロインにとって、とても良いシチュエーションなのだ。

 私はずぶ濡れになっていく自分と、その雨の景色を楽しんでいた。
< 1 / 3 >

この作品をシェア

pagetop