叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

お互いの転機

 
 翌日、おばあちゃんの病室へ行ったが検査中とのことで、時間を潰すために中庭を歩いていたらふとベンチを見つけて座った。

 目の前には大きなハナミズキの木。花が咲いている。
 それを見ていたら、ふと思い出した。

 そうだ、昔まだお母さんが亡くなる前だった。お父さんが亡くなり、お母さんも意識が戻らず、悲しくて廊下で泣いていた。
 
 その時、制服を着た男子高校生に声をかけられ、慰められた。中庭につれてきてくれてその時もベンチにふたりで座った。そして中庭に咲いている花を眺めながら話をしたんだ。そうだ、ハンカチも貸してくれた。あのハンカチはどこへしまっただろう。
 
 顔は覚えていない。背が高かったから目が合わなかったし、ブレザーの制服ばかり見ていた。でも一度話していたら笑ってくれた。嬉しかった記憶がある。

 病室へ戻り、おばあちゃんの顔色が昨日より良くなっていたので安心した。

 「おばあちゃん。私、家元を継承しようかと思うんだけど、どう?」
< 146 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop