【私以外、出会った瞬間ひと目惚れ! 両思いにならないと帰れないってマジですか?】 ~こじらせ女子は乙女ゲームの中で人知れず感じてきた生きづらさから解き放たれる~
1、 会社もコーヒーもブラック
深夜、都内オフィスビル。
ファストクリエイトエージェンシー社のフロアはまだ煌々と明るい。
「山里、次、このシステムのバグやってくれ」
「ぁ~いィ~……」
「んだぁ、その態度はぁ!」
「……サーセぇん……」
「遅ぇぞ、小松原!
いつまでちんたらやってんだ!
お前待ちだそ!」
「悪い、今送った!」
「おい、さっきのと変わってないぞ!」
「あっ、あ!? か、確認する!」
「頼むよオイ!」
「みなさ~ん、倒れる前に夜食つまんでくださ~い。
栄養ドリンクも追加しましたから~」
「サンキュー、中ちゃん!」
「て、天使……」
「社長……っ! もう、先方に納期を伸ばしてもらえるようお願いしましょうよ……!」
「なに弱気になってるんだ木原、みんなでここまで頑張って来たんだ。あと少しだぞ!」
「鬼!」
「ブラック! 」
「今度こそ辞めてやる!」
「労災だ。労災」
「俺が死んだら、田舎のおふくろを頼んます……」
エンジニアたちの毒と悲痛な叫びを食らいながら、よれよれのシャツを着た無精ひげの男、斎藤拓真がキーボードから作業の手を止めて立ち上がった。