タイト&レイブ

レイブ

 中は、踊る影でひしめいていた。
 鼻をつくドラッグとパヒュームの香り。
 照明が、激しく点滅し、ステップをふむ、無秩序な人格崩壊ダンス。
 まるで、操る意図のないマリオネットのように、奇怪な奴らが、顔を見ては笑い合う、女と男、狂騒のアフォリズム。
 言葉は何だ?
 レイジは、探した。
 発する奴を。
 サイケな雰囲気よれたシャツ、エンジの男が、レイジになめた視線を送ってきた。
 照明の乱反射。
 浮かび上がるごとに、視線は常態。周りを見ることなく、肩がぶつかるごとに、かるくおどけて、押しのける。
 歯のない男、薬物に汚染されたやくざ、やりたいだけの女、それを横目で見る馬鹿ッ面の学生風の奴ら。どけと言わずとも、徐々に殺意にブーストがかかってくる。
 エンジの男がまとわりついてくる。
 きっと目的は掏ること。
 巧みにかわしながら、あまりにしつこいので、どてっぱらに一発いれる。酔っぱらってその場に崩れるようにみせかけて、視線はバーテンの方へ。一瞬目が合う前にすっと視線を逸らす。
 レイジの眼は、静かな殺戮メシアのように変わってくる。
 それは、怒りを感じさせない、無垢な子供のような瞳で、映るもの映るものを慈しむように、殺していく。
 ターゲット。
 派手なミニスカートの女
 独りで踊っている。
 埋もれるようにダンスをするその女は、ミラーボールを見上げた。
 その背後を取った。
 一瞬視線が合う。
「ごめんな」
 女の顔が変わる前に、すっと脇腹にナイフを刺す。
 どっと倒れる、レイジにもたれかかるように。
 きつい香水の匂い。バニラ系。
 そのまま抱きしめる。
 そして、さりげなくダンスホールのソファに寝かせた。
 軽く頭を撫でて、ダンスフロアーに戻る。

 つぎは男と話している女。
 軽薄そうだ。きっとやくざの娘だろう。そんな推測はいらない。
 レイジはステップを踏む。指を鳴らして、踊り始める。
 少し酒を入れて、ドラッグを吸う振りをして、冷静に視線はミラーボール。
 キラキラと光るそれは、子供の頃に見た太陽ではない。
 日食が始まる。
 レイジは、銃を出した。
 ミラーボールを打ち抜いた。
 ダンスフロアーは真っ暗なる。
「ちょっと、なに?」
「お、やっべー!」
「おい! さわんじゃねえよ!」
 レイジは、ナイトスコープの眼鏡をした。
 女は痴漢されていたが、知ったことではない。
 一発で額を打ち抜いた。
 補助照明が点いた。
「ああああ!」
 男が叫んだ。
 そして、最後のターゲットを探す。
 カウンターで、酒を飲んでいる女。
 騒ぎの方に目をやっている。
 レイジはグラスを持って、女の横に移動する。
 誰も注目していない。バーテンも。
 実にさりげなく目にもとまらぬ速さで、すっと女のカクテルグラスに液体を盛る。
「まったく、なーにー?」
 レイジが横にいることを知って、女はえっという目をする。
 女の表情が変わる。
「あなた、えっとー」
「ん?」
「え、ああ」
「君、かわいいね」
「え」
「一緒に飲もうよ」
「うーん、いいよ」
 女を口説くのはものの一秒。
 言葉はほとんどいらない。
 そう、その、眼だけで。
「わたしね、今日、男に振られたんだよお」
「そうなんだ、こんなにかわいいのに、ひどい奴だね」
「そうなの。むかつくんだよ」
「殺し屋でも雇ってみる?」
「あはは、それはいらないよ」
「そう」
「うん」
 女が目にもとまらぬ速さで、ナイフをレイジの首に向けた。
 その腕を難なくとって、頭を掴むと、首をひねる。しかし、寸前に抵抗にあう。
 バーテンは騒ぎの方へ行ってしまった。
 この殺し合いは、実に静かだった。
 ダンスホールは銃で額を打ち抜かれた女が出て大騒ぎだ。
 女の眼は冷酷な殺人マシーン。
 カウンターに腰かけながらやり合う。
 しかし、そろそろ睡眠薬が効いてきた。
 女の眼がとろんとなってくる。
「ちきしょー!」
 女が目を剥く。
 そして、叫ぼうとする。
 その瞬間が隙だった。
 口を唇でふさいだ。
 女の体から一気に力が抜ける。
 そして、ぐたっとなってカウンターに頭を置く。
 レイジの唇の横から一筋の血が流れる。
 舌を噛まれたが、構わない。
 最高のキスだった。
 レイシはそのまま、騒ぎを避けるように、店を出ると人ごみに紛れて移動した。
「さあ、今日はこのまま、ソープにでも行こうか」
 バイクのエンジンをつけた。
 ヘルメット越しに月を見上げた。
 実に綺麗な星空だった。
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