恋人は謎の冒険者
次の日の朝、マリベルが支度をして仕事に出かけようと部屋を出ると、ちょうどフェルも部屋を出てきたところだった。

「おはようございます」
「お、おふぁひょ」

慌てて舌を噛んでいるフェルが可笑しくて、クスリと笑った。
父が亡くなってからから自然と笑えるようになったのは、初めてだった。

「今日の予定は?」
「ギルドへ依頼を確認に」
「そうですか。一緒に行きましょう言いたいところですが、受付が始まるまでまだ早いですね」

マリベルの出勤時間は受付開始の三十分前まで。一緒に出てもフェルはすぐに入ることは出来ないため、ギルドが開くまで待たなくてはいけない。

「大丈夫、どこかで時間をつぶすから」
「そうですか。じゃあ途中まで一緒に行きましょう」

何だかホントの恋人同士みたいだと思いながら、二人でアパートを出た。

「フェルさんって、冒険者以外の仕事ってしているのですか?」
「……親の仕事を継いだ」
「それって前に言っていた方の?」
「そうだ」
「じゃあ、そっちの仕事で儲かっているんですね。クロステルに泊まれるくらいだから」
「いくら貰っているか確認したことはない。でも他に使い道もないから多分たくさん残っていると思う」
「え、お給金がいくら知らないんですか?」
「それは管理してくれる人がいるから任せている」
「へ、ヘえ…」

使用人がいるということだろうか。と、なればやはりお金持ちのお坊ちゃんなのか。

「でもこっちに居るということは、そのお家の仕事は、どうされるんですか?」
「暫く休むことにした。ずっと休みを取っていなかったから。休めと言われていたし」
「大丈夫なんですか?」
「……多分」

あまり根掘り葉掘り聞いても悪いかと、マリベルも尋ねるのを控えたが、謎は深まるばかりだ。

ギルドの裏口でフェルと別れて中に入ると、キャシーが話しかけてきた。

「見たわよ、二人仲良く朝から一緒に歩いてきたの」
「た、たまたまよ」
「ふうん、でも彼ってすぐに何処か他所へ行っちゃうよね。大丈夫なの?」
「今度は暫くこの街にいるそうよ」
「え、それってマリベルのため?」
「違うと思うけど」

そう言えば、今回は長期でこの街にいる理由を聞いていなかったと思った。
家業を暫く休むと言っていたし、休暇を兼ねての滞在なんだろう。
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