恋人は謎の冒険者
「マリベルさん」

近づきてきたフェルは柔らかい笑顔を向けマリベルの名前を呼んだが、他の人たちの方を向く際には無表情となり軽く一瞥しただけで終わった。

「うわ、俺ら無視か」
「相変わらずマリベルだけだね」
「それだけ特別だってことね」

初対面の冒険者たちはムカついていたが、キャシーたちは苦笑いしていた。

「そう言えば、騎士団にお知り合いがいるとか言ってましたが、その方は中にいますか?」

気まずい空気を何とかしようとマリベルが話を振る。

「フェルさん、騎士団に知りあいがいるんですか!」
「わあ、スゴイ」
「おい、いい加減なこと言うなよ。そう言えば女の子たちが騒ぐとでも思うのか」
「騒ぐ?」
「やめて、フェルさんはそんなつもりは…」

何だか逆に空気が悪くなり、マリベルが慌てて止めに入った。

「お取り込みのところ失礼」

全員が声を掛けてきた人物を見ると、さっきギルド長たちと話していた騎士団の副団長が立っていた。

「何か揉め事?血の気が多くて活発なのはいいけど、そのエネルギーは魔物の討伐に使ってほしいな。人同士で争うのは、控えてもらおうか」
「す、すみません」

彼の言うことは正しい。今は魔物の氾濫(スタンビート)を回避するのが一番の優先事項だ。
それがわかっているので、冒険者たちは素直に謝った。

「頼みがあるんだけど」
「はい何でしょうか」

ラストラスがマリベルの方を向く。

「今回参加する冒険者たちの情報をもらえるかな。戦力がどんなものか把握する必要があるから」
「はい、ご用意しますが、いつまでに必要でしょうか。今現在登録を受け付けているところなのですが…」
「じゃあ、後でクロステルに届けてくれるかな。僕と上級大将たちはそこに泊まる予定だから」
「じゃあ、後でお持ちします」
「クロステル…まじか。一流ホテルじゃないか」
「さすが騎士団。俺たちと違うな」

そんな呟きが冒険者たちから聞こえた。しかしフェルは特に何の反応も見せない。

「君たちも参加するんだろ?」
「あ、はい、ジャンニ=マイロ、B級です」
「キャス=ベレント、同じくB級です」
「アベル=ラストラス、魔導騎士団の副団長だ。今回はよろしく。お互い頑張ろう」
「は、はいこちらこそ!」

副団長は緊張して固まる二人の冒険者にエールを送り、それから反対側に立つフェルの方を向き、彼が自己紹介するのを待っている。

「フェル=カラレス、C級」

小さいため息と共にフェルが名乗った。

「C級?」

魔物の氾濫(スタンビート)討伐の参加条件はC級以上だったが、実際C級で参加する者はほんの僅か。多くがB級以上だった。ランクが低いと逆に足手纏になり、自分だけでなく周りも危険に晒すことになるからと、やはり恐ろしいという理由からだった。
ラストラスは聞き返したのには、そういう事情からだとマリベルは思った。

「あ、あの、ラストラス副団長、彼はC級ですが、実力は保証します。この前もウルフキングを倒したんです」

マリベルはフェルの実力を伝えた。今になってはランクが正しいのかわからないが、A級のエミリオが放り投げた依頼を達成したのはフェルなのだ。

「そうです。すっごく採取が難しくて B級扱いの薬草をいっぱい取ってきて、花束にしてくれたり…」
「薬草の花束?」

マリベルがフェルの実力の凄さを話し、伝えるために言った言葉にラストラスは反応を見せた。
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