恋人は謎の冒険者
その後は少し早めに営業しているお店に入り、エールを煽った。
まさか二股をかけられていたとは。しかも自分は本命でもなく、利用されていただけだった。
A級になりたかったのはプリシラのため。その上二人はすでに肉体関係にある。

何もかも嘘だった。

エミリオの優しさも、自分に向けた言葉も、何もかも幻だった。

腹が立った。騙していたエミリオにも、傍にいてそんな私を影で笑っていたプリシラも。
そして一番腹が立ったのは自分にだ。
父は仕事には厳しかったが、マリベルには甘い父親だった。早くに母親を亡くして可哀想だと思っていたのか、ギルドで働きたいと言うマリベルの気持ちも理解してくれた。
エミリオがB級だろうがC級だろうが、誠実にマリベルに接し大事にしてくれる人なら、きっとマリベルの恋人として認めてくれただろう。
彼の口車に乗って言われるがままに対応していた。

でもプリシラとのことは想定外だった。

あまりのショックにお酒を飲まずにはいられなかった。
これまでのマリベルの人生で、記憶を失うまで飲んだことはない。
飲んで、飲んで、飲んで。途中で誰かに絡んだかもしれない。
そしてマリベルはゴチンと額をカウンターに打ち付けて酔い潰れた。

「う・・み、水・・」

喉が無性に渇いて目が覚めた。

「う・・ま、眩しい」

うっすらと目を開けると、眼球に突き刺さるような眩しさに目が耐えられず再び目を閉じた。

「あう! いた、いたたたた」

目覚めると同時に頭を鈍器で殴られたような痛みが襲いかかった。

「い、イタイ・・なに」

恐る恐る目を開け、ようやくはっきりと目を見開くと、そこは見たことの無い部屋だった。

「ここ・・どこ?」

カーテンの垂れ下がった広い寝台の上にマリベルはいた。体を包むシーツもいつも浸かっている木綿でなく、サラサラとした絹だ。
頭を横に向ければ、大きな格子のガラス張りの窓から、優しい陽の光が降り注いでいる。
部屋にある調度品もとても高そうだ。

「ゆ、夢・・」

そうだ夢だ。もう一度眠って目が覚めたら、自分の新しく引っ越したアパートにいるはず。
そう思って目を閉じたが、不意に耳に入ってきた音で、またもやカッと目を見開いた。

それは隣の部屋から聞こえてきた。

扉の向こうが何の部屋なのかはわからないが、パシャリという音は明らかに水音。そう思って耳を澄ませば、またもやバシャバシャという音が聞こえてくる。

扉の向こうはきっと浴室。そしてそこには人がいる。
はっと窓と反対側を振り向けば、自分の頭を乗せている枕とは別の枕に、明らかに誰かの頭が乗っていた跡がある。そしてそこには、自分の赤毛とは違う色の髪の毛が落ちていた。

「え!」

慌ててシーツを捲って自分の体を見ると、服は着たままだった。
とりあえずほっとしたが、未だガンガンと痛む頭を抱えながら必死で記憶を辿る。

「確か・・エールをがぶ飲みしていて・・」

隣にいつの間にか座っていた男性に、何か話しかけた。その人はマリベルの話をとても熱心に聞いてくれた。

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