恋人は謎の冒険者
そんな相手が、今目の前にいる。

「あ、あの…ふ、服、服着てください!」

相手がほぼ裸なのに動揺して、慌てて顔を背けて訴える。

「あ、す、すすすすみません!」

急いで近くにかけてあったシャツを羽織ってくれた。

「す、すみませんでした。も、もう大丈夫です」

弱冠動揺しつつも、耳に心地良い低音ボイスでそう言ったので顔を彼に向ける。
いつも短くボソリと呟くだけの彼の声を初めてちゃんと聞いた。

「あ、あの…変なことを聞いていいですか?」
「な、なんでしょうか」
「えっと、確かそんなに年齢違わないですよね。もっと気楽に話してもらっていいですよ」

もっと砕けた話し方でいいと告げた。

「いえ、そんなわけにはいきません」

背中を向けたまま、彼はブンブンと首を振る。
首から背中にかけての筋肉が浮き上がる。腰もきゅっも締まって無駄な脂肪は一切ない。お尻もプリッと引き締まっていて、がっしりした太ももに見惚れてしまう。

(やだ、私ったら痴女みたい)

バチンと頬を叩いて自分を戒める。

「じゃ、じゃあ…お聞きします。その…私とあなたって…その…夕べ…一緒に…その…もしかして…」

ゴニョゴニョと口ごもりながら、昨夜二人の間に何があったのか確認する。よもや、初体験を覚えていないとか。

「もしかして?」
「お恥ずかしいことですが、覚えていないので…」
「安心してください。俺は酔って吐いたフリンクさんを介抱しただけです。汚れは洗浄魔法で綺麗にしました」
「ええ!」
「その後眠ってしまったので、仕方なくここに・・そしたら、急に泣き出して、俺の服を掴んで離さなかったのでそのまま・・」

まさか、自分が吐いた上に、泣いて彼に抱きついたまま寝てしまったとは。

「あ、でも本当に、それだけで、やましいことは何も」
「す、すみません、私…こんなになるまで酔ったことなくて…」

(ああ、穴があったら入りたい・・わたしったら、よく知らない人にそんな迷惑を・・)

「謝る必要はありません。大変だったんですから、フリンクさんがお酒に逃げるのは仕方がありません」
「え!」
「ギルド長のこと、残念です。とても良い方でしたのに」
「あ、はい、ありがとうございます」

エミリオのことかと思って焦った。夕べのことは途中から殆ど断片的な記憶しかない。
誰かにエミリオとプリシラのことを喋ってしまっていてもおかしくないが、それは杞憂だったかも知れない。

「カラレスさんは、父のこと知っていたのですか?」
「俺のことはどうかフェルと呼んでください」
「では、私のこともマリベルと…」
「いいのですか? 俺があなたのことを名前で呼んでも」

彼が先に言ったからマリベルもそう言ったのだが、彼はまるで王女様に名前で呼ぶことを許可されたのかという反応をする。

「いいも何も…あなたもフェルと呼んでいいと言うのにわたしがいつまでもフリンクさんでは変ですよね」
「で、でも…俺のような者が…そんな烏滸がましい」
「烏滸がましいって…私はただの平民で、しがないギルドの受付係です。友達は皆そう呼びますから、遠慮せず。嫌なら…」
「と、友達…お、俺が、あなたの…友達…」

「友達」という言葉に過剰なほど興奮しだす。頬が紅潮し、そわそわと挙動不審な感じに弱冠引き気味になった。
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