せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
 ……お昼休み前、クラーラに一緒に学園に行かないかと声をかけたら、「マリー様は学園用のシェフがいらっしゃるから」と言い断られたのだが、こういうことか。お金持ちの貴族令嬢だからこそなせる業なのだろう。これが許されるなら、うちもマルコさんを派遣すればよかったのに。
「そのお茶、いい香りね。わたくしにもいただける?」
「あっ、よければ僕にもいいかな?」
 私がお茶を淹れていると、クラウス様以外のふたりにも、お茶をくれないかと頼まれた。
「もちろん。エルムで採れたラズベリー葉で作られたリーフティーなんです。ぜひ召し上がってください」
 てきぱきと用意して、三人分のリーフティーをテーブルの上にセットする。ああ、この感じ、初めてクラウス様が屋敷にマシューとリーゼを連れてきたときを思い出す。
今も男女比は一緒だけれど、空気はまったく違う。特に、クラウス様のリラックス具合が。 
そう思うと、クラウス様はマシューとリーゼには相当心を許してるんだなぁと思った。このふたりとも、アトリアにいるあいだ、絆が深まっていくのだろうか。その様子を見守るのも、ちょっと楽しみだったり。
「ありがとう。……うん。美味しいな。ユリアーナさんはお茶を淹れるのが上手なんだね」
 ひとくち飲んで、コンラート様が私にそう言った。
「そうですか? 光栄です。でも、私の働くシュトランツ公爵家には、もっとうまく淹れられる侍女がたくさんいますよ。私はまだまだ勉強中で……」
「へえ。そうなんだ。ユリアーナさんでもじゅうぶんすぎるくらいなのに。もっと自信を持って」
 ……優しすぎる! コンラート様って、私のような使用人にも分け隔てなく接してくれる。アトリアの王族なんて、最高級のお茶をたくさん飲んで育ってきただろうに。そんな人に褒めてもらえたら、勝手に自信もついてくる。
 私は褒められたことが嬉しくて、「えへへ……」と照れ笑いを浮かべていると、クラウス様があきらかにムッとしていた。
「お茶のことはさておき、今日の三限目の実習、すごかったですわ。クラウス様の魔法、威力がほかとは全然違うんですもの」
「僕も驚いた。おまけにコントロール力も抜群だったし」
「ああ、あれは俺の得意な魔法だったんだ。的に向かって魔力を放つのは好きだからね」
 三人が授業の話で盛り上がり始める。
 どうやら、いろんなターゲットに指定された魔法を放つという実習授業があったようだ。そこでクラウス様は、クラスの中でかなりいい成績を残していたとか。
 ――的に向かって魔力を放つのは好きって聞くと、盗賊や人さらいに躊躇なく魔法を放つクラウス様のことを思い出すわ。あのときも、たしかにコントロール力は抜群だったわね。
「クラウス様、マリーにも魔法を教えてくださいませ。できれば放課後、ふたりっきりのレッスンだと嬉しいですぅ」
 マりー様はクラウス様の椅子に自分の椅子を近づけて距離を詰めると、肩を密着させておねだりし始めた。
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