せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
 そして六日が経ち、いよいよ明日、クラウス様はアトリアに経つ。
 今日はそのお見送り会と称してのパーティーが、シュトランツ家で行われることになった。とはいっても来客はクラウス様が激戦したいつものメンバー、リーゼとマシュー……そして。
「お前は呼んでいないんだけどな。エディ」
「申し訳ございませんが、私はリーゼ様の専属執事ですので」
 会って早々クラウス様とバチバチしている、リーゼの執事、エディだ。このふたりは前回の一件から、ずっと仲が悪い。というか、クラウス様が毛嫌いしているといえる。
「一切ユリアーナに近づくなよ。いいな?」
「そう言われましても。……ユリアーナが嫌ならもちろん近づきませんが」
「俺の言うことが聞けないと?」
「私の主人はリーゼ様なので」
 エディの言うことにいちいち眉間の皺を増やしているクラウス様とは対照的に、エディは冷静に答えている。
「ごめんなさいユリアーナ様。エディもどうしても参加したいって言うものだから、私も断りづらくて。こうなることはわかっていたんですが」
 ふたりのやり取りを眺めて、リーゼが気まずそうに言う。
「いえ、私も久しぶりにエディに会えて嬉しいです!」
「おいユリアーナ、そのセリフ、絶対クラウスの前で言わないほうがいいぞ。……まぁ俺としては、おもしろいもの見れて楽しいけどな」
 私の肩に肘を乗せて、マシューが忠告すると共にけらけらと笑い、お気に入りのマルコさん特製マフィンを豪快にぱくりと食べた。こんなふうに屋敷内で豪快に立ち食いする令息はマシューくらいだろう。
「そういえば、マシュー様は専属の使用人はいらっしゃらないのですか? 見たことがないなと思って」
 二口でマフィンを完食したマシューに聞いてみる。
「いないな。つーか必要ない。俺は自分で自分の身を守れるし。どっちかというと、護衛する側のが向いてる」
 マシューは魔法はそこまで得意ではないが、剣術や武術は得意と聞いた。魔法と組み合わせてそれらを使えば、相当強いとリーゼから聞いたことがある。
「……なんか、初めてマシュー様をかっこいいと思いました」
「失礼なやつだな」
 だっていつも食い意地が張っているし、悩みなさそうなほど陽気だし。……そんな親しみやすいところが、マシューのよさでもあるのだが。それに、あの癖アリクラウス様の親友をずっとやれているなんて、相当優しい性格なんだろうと思う。
「おいマシュー。お前今、ユリアーナに〝かっこいい〟って言われてなかったか?」
「じ、地獄耳! ユリアーナ、言ってないよな!?」
 ついさっきまでエディと言い争っていたクラウス様が、ひょこりとマシューの背後から姿を現した。まるで幽霊が現れたかのように、マシューは肩をびくりと跳ねさせる。
「はい。クラウス様の勘違いでは?」
 かわいそうなので、ここは話を合わせてあげることに。
「そうか。しかし、ユリアーナの肩に触れていたことが気に入らない」
「どっちにしろ文句あるんじゃねぇか! あーもう、悪かったって!」
 そのままクラウス様の次の標的はマシューへと移り変わった。傍から見れば仲良くじゃれ合っているようにも見えるが……その様子を見て、私はリーゼと顔を見合わせて苦笑する。
「ユリアーナ」
「エディ、久しぶり」
「話すなら今のうちだと思って」
 クラウス様とマシューがじゃれている隙を見計らって、エディがこっそり話しかけてきた。エディと会うのは、私が学園にクラウス様を迎えに行ったとき以来だ。
「一時的とはいっても、留学することになるとは驚きだよ」
「ね。あまりにも突然だったし、私もびっくり」
「……俺がこんなこと言うのもなんだけどさ、修復ギフトの力を利用されなきゃいいけど」
 エディも言葉に、私は首を傾げる。クラウス様が私のギフトの件を言いふらすと思っているのだろうか。
「ま、聞いたところアトリアにもギフトを授ける精霊がいるみたいだから、大丈夫と思うけどね。修復ギフトって、めずらしいからさ」
「へぇ! アトリアにも精霊がいるのね。どんな精霊かしら」
 次ティハルトに会えたら聞いてみようっと。
「……まったく。相変わらずユリアーナはのんきだな」
 エディは呆れたように笑った。相変わらずって……私、いつものんきだと思われてる?
 そうこうしているうちに時間は過ぎていき、パーティーも終盤に差し掛かる。
 私はこのパーティーの参加者でもあるが侍女としての立場もあるため、空になった皿を運んだりお茶のおかわりを運んだりしながら、クラウス様に目線をちらりと向けた。
 明日旅立つというのに、クラウス様はいつもと変わらない笑顔で楽しんでいる。
 ――明日行っちゃうのか。でも、これはむしろ私にとってはいいことなのかもしれない。だってこれで、しばらくクラウス様と離れられるんだもの……!
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