せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
「ちなみに、婚約者時代のユリアーナは俺にべた惚れで、そりゃもうすごかったんだ。学園でも四六時中追い回してきてさ」
「その話はやめてくださいーっ!」
 四六時中追いかけまわされることに嫌悪感を抱いていたくせに、今では武勇伝のように自慢げに語り出すのだから、勘弁してほしい。
「へえ、そうだったんだね? あんまり想像がつかないな。でもそんなユリアーナさんを、僕も見てみたいよ」
「え? なんでですか? ……あ、怖いもの見たさってやつでしょうか?」
「……ははっ! ユリアーナさんっておもしろいね」
 なにがコンラート様のツボにハマッたのかわからず、私の頭にハテナマークが浮かぶ。
「残念だなコンラート。ユリアーナがそうなるのは俺にだけだ。お前が見られることは一生ない」
 クラウス様の眉がピクピクと動き、早口でまくし立てるように言うと、コンラート様は「クラウスは手厳しいなぁ」と言いながらへらりと笑っていた。コンラート様も冗談で言っているに決まってるのだから、クラウス様もいちいち本気で返さなくていいのに。
「はあっ。この話、マリーはもう飽きちゃいましたわ」
 背もたれにずるりともたれかかって、マリー様は足を組むと大きなため息をついた。そしてマリー様があからさまな不機嫌モードに突入したところで、お昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響く。
「チャイムだわっ! クラウス様、コンラート様、次の授業に向かいましょうっ」
 マリー様はがたりと椅子から立ち上がると、両手でふたりの片腕をそれぞれ掴んだ。
「ユリアーナ、また後で。ランチ、一緒に過ごせてよかった。ありがとう」
 クラウス様は私にお礼を言うと、学園内へと戻って行った。コンラート様も去り際、私にひらひらと手を振ってくれた。
 三人の後ろ姿が、リーゼとマシューと楽しげに歩くクラウス様の面影を呼び覚ます。
 ――悪役令嬢ユリアーナは、どんな気持ちでこの後ろ姿を見ていたのだろうか。
 自分は決して、あの中には入れない。その疎外感は、私の胸をちょっとだけ締め付ける。
 このとき、私は少しだけ……悪役令嬢ユリアーナの気持ちがわかった気がした。

< 21 / 32 >

この作品をシェア

pagetop