バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
恋の自覚
すみれは東京に来てすぐに、近くの公立小学校へ転入した。

クラスメートは北海道から来たすみれを温かく迎えてくれた。

「野生のキツネ、見たことある?」

「北海道にはゴキブリがいないって本当?」

転校初日、すみれの机はクラスメートに囲まれ、質問攻めにあい、すみれはそれをひとつひとつ丁寧に答えていった。

そして一か月も経つと、すみれはすっかりクラスに溶け込んでいた。

ある日席替えがあり、川中琴子というショートカットで涼し気な目元が特徴的な女の子がすみれの右隣の席になった。

物静かで大人っぽく、話しかけるのに少し躊躇してしまうタイプのクラスメートだった。

今まで一度も話したことがなかったけれど、思い切って身体を横にして挨拶してみた。

「あの・・・川中さん。これからよろしくね。」

琴子は、少し驚いた顔をした。

そして目を逸らしながらそっけなく言った。

「・・・よろしく。」

琴子はクラスメートに、近づきがたい人物として認識されているようだった。

けれど隣で何気なく琴子を観察していると、理科で星座を習っている時には瞳を輝かせ、国語で「銀河鉄道の夜」を先生が朗読している時は悲しそうな顔をしてみせた。

表情がくるくる変わって感情が豊かな子なんだなと気づき、自分と感性が似ているかもしれないと思ったすみれは、自分から琴子に近づいていった。

体育の時間、ペアを組んで体操をすることになった。

すみれはすかさず琴子のそばへ近寄って声を掛けた。

「川中さん。一緒に組まない?」

「・・・いいけど。」

一緒に手を繋いで脇を伸ばしたり、背中合わせになって腕を組み、お互いを背負ったりするうちに、すみれと琴子はなんとなく可笑しくなり笑い出した。

「野口さんって大人しそうなのに、けっこうグイグイくるよね。」

琴子に言われ、すみれはにっこり笑った。

「うん。好きな人には、私けっこうグイグイいくよ。」

「へえ。野口さんて面白い。」

「川中さんこそ。クールに見えるけどけっこう涙もろいところあるよね?銀河鉄道の夜を授業で習った時、泣きそうになってたでしょ?ねえ、ジョバンニとカムパネルラ、どっちが好き?」

すみれの質問に琴子はしばし考えた。

「カムパネルラかな。人を助けるって崇高なことだと思うから。」

「それで誰かが悲しんでも?」

「うーん。」

「天国ってあると思う?人って死んだらどこへ行くんだろう?」

「私、宗教的なことは何もわからないけど・・・天国はあると思うな。良い行いをしたら天国へいくの。でも悪い事をしたら・・・地獄にいくのかも。」

「悪い事・・・?」

「そう。」

悪いことをしたら地獄へ行く・・・その言葉にすみれは震えあがった。

すみれと琴子は給食を一緒に食べるようになり、通学時も並んで歩くようになった。

そして、いつしか「すみれ」「琴子」と呼び合うような仲になっていた。

琴子はよくすみれを家に呼び、すみれも琴子と遊ぶのが楽しくて、週に2回は琴子の家を訪れた。

すみれと琴子はもっぱら家の中で遊んだ。

好きな少女漫画の絵を真似して描いてみたり、琴子の家で飼っている三毛猫のリンと戯れたりした。

< 12 / 74 >

この作品をシェア

pagetop