バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
「野口さん。申し訳ないけど、僕は男性にしか・・・」

「ごめん!違うの。大原君に私の彼氏のフリをしてもらえないかなって思って。」

「彼氏のフリ?」

「うん。私に彼氏が出来れば、航君も安心すると思うんだ。そしてやっと自分の幸せに目を向ける。私は航君にとって大きなお荷物なの。その重い荷物をもういい加減降ろしてあげたい。」

「自分のことをお荷物なんて卑下するのは良くないと思うけど。」

「でもそれが現実。私はそのことからずっと目を逸らして生きて来た。でももうそれもお終いにする。」

大原は少しの間固まった後、すみれの目を見た。

「本気なんだね。」

「うん。本気。本当はちゃんと自分で恋人を作れればいいんだけど、私はこれまでもこの先もずっと航君しか好きになれないから・・・。そんな気持ちのままで恋人なんて作ったら、相手にも自分にも不誠実でしょ?」

「それはそうだけど・・・。」

「こんなこと大原君にしか頼めないんだ。引き受けてくれないかな?お願いします!」

すみれは大原に向かってテーブルに手を付き、深々と頭を下げた。

ゆっくりと顔を上げると、大原はその長いまつ毛を伏せながら言った。

「わかった。他ならぬ野口さんの頼みだ。引き受けるよ。僕もフリーだから何も困ることなんてないしね。」

「ホント?!ありがとう。恩に着ます。」

すみれはさらに何度も頭を下げた。

近くの席で飲んでいる団体客が、乾杯の音頭を取るのが聞こえて来た。

店にいる客達はみんな幸せそうに笑っている。

悩みなどなにもなさそうなその笑顔がすみれには羨ましかった。

「それでね・・・私、あの家を出ようと思ってるの。私に彼氏が出来たら、航君もきっと恋人を作ると思うんだ。」

それは麗華さんかもしれない。

それとも別の女性かもしれない。

いずれにしても、私ではない航君にお似合いの大人で素敵な人なのだろう。

「それを近くで見て喜んであげられる自信がない。だから・・・逃げるの。卑怯だと思う?」

「いや・・・逃げることは悪いことじゃない。でも叔父さんはきっと心配すると思うよ。多分反対されるんじゃないかな。」

「そんなことない。きっと航君はホッとする。私も好きな人の幸せを心から願える人間になりたい。大原君みたいになりたい。」

「・・・なれるよ。きっと。」

大原はそう言って、小さく微笑んだ。

「じゃあ今日は野口さんの旅立ちを祝って飲もう!」

「うん!じゃあ乾杯!」

「乾杯!」

すみれと大原はカチンとグラスを合わせた。

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