バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
そして今日。

いつもの待ち合わせ場所である海鮮居酒屋に入ると、大原はやはりいつもの席ですみれに向かって大きく手を振った。

「ごめんね。待った?」

「いや・・・僕も今来たところ。」

大原の隣に座ったすみれは、お手拭きで手をふいた。

「なに飲む?」

「うーん。檸檬サワーで。」

「僕は梅サワーにしようかな。すみませーん。」

大原は店員に飲み物と、つまみを頼んだ。

大原もすみれと同じくビールが苦手だった。

しばらくすると飲み物がテーブルに届き、すみれと大原は乾杯をした。

「何に乾杯?」

「我々の報われない恋に、乾杯!」

そう言って梅サワーを飲む大原の顔は、前回の悲壮感漂う表情とは打って変わって、何かを吹っ切ったようにすっきりしていた。

「どう?少しは立ち直った?」

「うん。まあね。」

大原はカバンからスマホを出して、その液晶画面に映る写真をすみれに見せた。

それは綿貫のSNSの投稿写真だった。

綿貫が髪の長い女の子とピースしながら肩を寄せ合っている。

背景をみるとかすかにシンデレラ城が見えるから、どうやらディズニーランドでデートしたときの写真らしい。

「見てよ。この直人の幸せそうな笑顔。」

なかば諦観した口調の大原は人差し指でその画像を弾いた。

たしかに綿貫の笑顔は太陽のように輝いていた。

「ああ、直人は今幸せなんだなあって思ったら、僕の心の痛みもだんだん癒えてきてさ。直人の幸せが僕の幸せなんだって気付いた。僕も新しい出会いを探そうかなって前向きになってきたんだよね。」

「そっか・・・。大原君は偉いね。私なんて全然ダメ。いつも自分のことばかり。」

でも・・・今日すみれはある決心を持ってここに来た。

テーブルにおつまみが届いた。

アツアツのチーズ春巻きを食べているすみれに大原が言った。

「野口さんは最近どう?」

「どうもなにも、もうとっくに私は航君に振られてるから。」

「振られた?」

「うん。お祖母ちゃんのお葬式が終わったあと、航君に告白したんだ。航君のことが好きだって。ずっと航君のそばにいるって。でも・・・航君は私のこと、姪としてしか思えないみたい。」

「・・・そっか。それは辛いね。でも野口さんはすごいよ。僕なんて告白もできなかった。」

大原はそうぽつんとつぶやくと、梅サワーを口に含んだ。

「だからね。もう航君を解放してあげようと思うの。」

「解放?」

「うん。私が航君を好きなままだと、航君はずっと幸せになれない。それに航君を心から笑顔にしてあげられるのは、もう私じゃないみたいなの。だからね・・・」

「・・・・・・。」

「大原君、私の彼氏になってくれないかな?」

すみれの言葉に大原は目を白黒させた。

ああ、私はまた言葉足らずで、大原君を驚かせてしまっている。

初めて大原君に話しかけた時と同じように。

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