臆病な私の愛し方
 あまりに考え過ぎのまま過ごした私は、夜九時半ピッタリに約束の場所に着く。するとすでに黒川さんが待っていた。

「黒川さん、おまたせしてすみません!遅くなりました…!」

「…いや」

 私が謝ると、彼は嫌な素振りも見せずにそう返してくれた。

「私から呼び出しておきながら、本当にすみません…」

 私は頭を下げてから手土産を差し出す。

「あのっ…黒川さんが食べられるものかが分からないんですが、その……」

 こんなとき、何と言ったらいいのか分からず、頭を下げたままになってしまう。

「…いいのか?」

 黒川さんが呟くようにそう言った。
 ここでしっかり言わなければ、何も伝わらない。しかし私の口から出たのはしどろもどろな言葉。

「…黒川さんにお礼を言いたくて…でも、私は何もできませんから…だから…」

 私はチラリと彼を見る。
 しかし彼は次の瞬間、私を真っ直ぐに見つめて言った。

「…じゃあさ…俺と付き合って」

 彼の目は真剣そのもの。
 黒川さんが冗談を言うところなんて想像出来ないけれど、私は彼の言った言葉が信じられなかった。

「え…」

 それは私が今日一日で行き着いた答え。

 私は黒川さんが気になる。
 結婚をしていたり好きな人がいたら諦めよう、それでも自分の気持ちだけは、と。

「うそ…私の方が、言おうと思ってたのに…」

 思わずそう呟いてしまった。

 きっと何かの聞き間違い。
 そう思っても混乱してしまい、聞き直す勇気もないまま私は勢いよく息を吸い込む。
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