臆病な私の愛し方
「んだと、おい…!」

 お客様は彼に掴みかかりそうな勢いだった。

 すると彼は初めに会ったときに見た、突き刺さりそうなほど鋭い目付きで相手を睨み返す。

「…おい…警察呼ばれたいか…?彼女に詰め寄ってたの、監視カメラに映ってるはずだけど。アンタ、それでも言い逃れできるのかよ…」

 私たち以外人のいない店内に、彼の低く冷たい声だけが響いた。


 すぐにスタッフルームの奥から音がする。

「っ、青沢さん!!…申し訳ありませんお客様、どうかされましたか!?」

 ようやくチーフが気付いて出てきてくれたけれど、私は力が抜けて何も言えなかった。

 チーフは彼とお客様を交互に見てから私を見やる。
 すると彼は私の代わりに説明してくれた。

「…この客が彼女に、このホットフードの紙袋にアイスを詰めろと言って困らせていました。彼女は悪くない。こんな小さな袋に入るわけがない。しかも紙の」

 彼の言葉や目からは先ほどの鋭さは感じられない。
 私もようやく少しだけ落ち着き、彼を見て言った。

「…すみません、チーフさん…こちらのお客様は、私を心配して下さって…だから……」

 チーフは私の代わりにお客様に何度も頭を下げ、

「…お客様、申し訳ありませんが…。本当に至らず、申し訳ありません…」

 そう言うと、お客様は何も言わずにお店を出ていった。

 私は安心感に、力が抜けてその場にへたり込む。
 例の彼は少し間を空けてから言った。

「…俺、彼女をタクシーに乗せて送ります。これじゃきっと働けないでしょう?」

 その言葉に、チーフは困惑顔で彼を見つめる。

 すると彼は真顔のまま、

「俺は彼女と少し顔見知りなんで。俺は黒川といいます。…『青沢』さん、立てる?」

 そう名乗り、私に声を掛けた。
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