御曹司くんには婚約者がいるはずでは!?
「は?」
次の日の朝、いつものように黄色い声を浴びながら教室に入ってきた王子は、入り口で立ち止まった。
「はよーっ琳凰!昨日席替えしたから、お前の席はあそこ。おれの隣な!喜べ!」
状況がまだ理解できていない氷上くんに、結城くんが話しかけに来た。
「え・・・」
そう声を漏らした氷上くんの視線が辺りを見渡すように動き、私のところで止まった。
「おはよう、氷上くん」
目が合ったから一応挨拶をした。
席を一つ挟んですぐそこにいる氷上くんは、まだその場から動かない。
「いいんちょー、そこ・・・?」
「うん。久しぶりに離れたね」
氷上くんの様子にどういう顔していいかわからず、ちょっと苦笑いして返事した。
「ま、お前も親離れしなきゃな?」
結城くんが楽しそうに氷上くんの肩を叩いた。
「結城、お前なんかやった?」
「オレ?何もやってねーよ?これが自然の摂理ってやつよ。ほらほら、行こーぜ」
低い声でなにか言った氷上くん。結城くんはその背中をおかまいなしに押して席へ連れて行った。
「ちょーちょーちょー、なんか面白いことになってきたじゃんっ」
のんちゃんが斜め後ろの席で足をバタバタとさせている。
「のんちゃん、どうしたの?」
「どうした森下」
私と加瀬くんは、のんちゃんの方へ体を向けた。
「ちょいちょい、ちょっと顔寄越しな、二人とも」
のんちゃんにそう言われ、体を乗り出して加瀬くんとふたりでのんちゃんの方にグイッと顔を近づけた。