初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
プロローグ
 オネルヴァは寝返りを打った。()たれた肩がひりひりと痛む。
 簡素な部屋に質素な寝台。立てつけの悪い窓は、風によってカタカタと音を立てている。今日は、いつもより風が強い。
 頭まですっぽりと掛布の中に潜り込むと、夢の世界へと微睡み始めた。
 誰もが魔力を持つこの国で、オネルヴァには魔力がまったくなかった。魔力を持たない者は『無力』と呼ばれ、蔑みの対象となる。その結果、オネルヴァは王族であるにもかかわらず、離宮のこんな物置小屋のような狭い部屋に押し込められているのだ。
 それでも『女』としての価値を下げることないようにと、礼儀作法だけはびっちりと叩きこまれていた。むしろ、叩きこまれ過ぎるおかげで、少しでも失敗をすると打たれる。打たれなかった日があるとしたら、それは教師と会わない日くらいだろう。
 今日も半日、びっちりと礼儀作法を叩きこまれていた。だから、肩が痛む。
 外はすでに闇に満ちていた。
 王宮から少し離れた鬱蒼(うっそう)とした場所にある離宮では、風の音が人の叫び声に聞こえるほど、他にはなんの音も声も聞こえてこない。
 ただ、この場所からは星は綺麗に見える。きっと今日も、数えきれないほどの星が輝いているのだろう。
 オネルヴァは、先ほどから何度も夢の世界の入口へと足を踏み入れようとしているものの、風の音で現実へと引き戻されていた。とにかく今日は風が強い。
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