初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
夫42歳、妻23歳、娘7歳
 イグナーツと身体を繋げてからというもの、彼はより一層オネルヴァを気遣うようになった。いや、オネルヴァ自身がそう感じているだけなのかもしれない。実際、すべてを暴かれた次の日は、寝台から起き上がることができなかった。
 そんな二人の関係に、周囲は敏感に気がついたようだ。エルシーは、忙しいながらも機嫌のいいイグナーツの存在に喜んでいる。
 イグナーツの仕事が忙しいのは相変わらずで、それはアルヴィドがこの国を訪れているのも原因の一つである。だからといって、アルヴィドを恨むとかそういった感情があるわけでもない。
 ゼセール王国とキシュアス王国の関係は、オネルヴァだって理解しているつもりだ。
「領地へ行くことになった」
 そうイグナーツが言葉を漏らしたのは、あの日から数日後のことだった。
 オネルヴァは、ナイフを動かしていた右手を止めた。
「領地、ですか? 北の関所のある?」
「そうだ」
 イグナーツは、いくら仕事が忙しくても、夕食の時間には間に合うように帰宅している。それがエルシーの喜んでいる理由の一つでもある。エルシーから見たら、父親と母親の仲がよいのは、やはり嬉しいことなのだろう。
「ラーデマケラス公爵が、どうしても北の関所とその周辺を視察したいと言ってな。あそこは、キシュアスとの国境でもあるし」
「そうなのですね」
 アルヴィドはオネルヴァにもそこを視察したいと言っていた。それが具体的に計画されたのだろうと判断する。
「それで、急で悪いのだが。オネルヴァとエルシーは先に領地へ戻り、ラーデマケラス公爵を迎える準備をしてくれないだろうか。あちらにも人はいるが、こちらからも幾人か人は出す」
「はい」
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