初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
エピローグ
 月日が流れるのは早く、オネルヴァがゼセール王国に来てから二度目の収穫の月を迎えた。
 彼女のお腹はふっくらとしており、新しい命を育んでいる。
「オネルヴァ。顔を見に来たよ。調子はどうだい?」
 サロンでエルシーとお茶を飲んでいると、イグナーツがアルヴィドを連れてやってきた。
 アルヴィドは、今年もアーシュラ王女の誕生パーティーに出席していた。その間、イグナーツの別邸に泊まっている。
「ええ、順調です。このままいけば、雪の月には生まれるかと」
「寒さが厳しい季節だね。身体が冷えないように贈り物をしよう」
「アルヴィドお兄様。贈り物はたくさんいただきましたから」
 オネルヴァの妊娠がわかってから、アルヴィドはイグナーツと競い合うかのようにして、何かかしら送ってくるようになった。
 歩きやすい靴、身体をしめつけない服と、どこから情報を仕入れてくるのかわからないが、オネルヴァも知らなかったような品物を送ってくる。
「これ以上は、いりません」とはっきりと言葉にしたのに、キシュアスの民が作ったものだからと言われてしまうと断れない。そうやって、国と民は再建の道を歩んでいる。
「だけど、寂しい感じもするな。オネルヴァは俺の妹であったのに、なぜかイグナーツ殿にとられたような気持ちになるんだよ」
 イグナーツの口の端がひくっと動く。
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